■懐石の特徴

料理の革命・懐石の誕生

懐石はそれまでの料理に対してどのような特徴を持つか。沢山の膳がでる本膳料理が目の前にずらりと料理が並ぶ平面羅列型であったのに対し、膳が一つに限られ、一つ一つ食べ終わるごとにその都度料理が運ばれるのが会席で、会席は料理が時間系列を持って配膳される新しい様式の料理と言える。こうした会席の特徴を見事に言い当てたのが、利休の時代に日本に滞在した通辞ロドリゲスの『日本教会史』の記述である。
ロドリゲスによると、桃山時代の宴会料理には4種類あって、第一の料理は「三つの食台(三の膳)の宴会。なぜそう呼ばれるかというと、それだけの数の正式な食台、即ち、盆がそれぞれの客に対して別々に置かれるから」と書かれている。要するに、三の膳までついた本膳料理のことである。第二の料理は五の膳の料理、第三の料理は七の膳の料理で、「最も荘重であり、いっそう厳粛な宴会」に出される。この三種は本膳料理のいわゆる七五三の膳にあたる。さて問題は第四の宴会、すなわち、当時始まった新しいスタイルの宴会である。

第四種の宴会は(中略)、信長や太閣(秀吉)の時代から行われはじめて、現在大国全土に広まっている当世風の宴会である。というのは、その時代以降多くの事を改め、余分なもの、煩わしいものを棄て去って、その古い習慣を変えると共に、宴会に関しても、さらに平常の食事に至るまで、大いに改善した。

では、食事を改善したとはどのような面を指したのだろうか。

料理について言えば、ただ装飾用で見るためだけに出されたものと、冷たいものとを棄て去って、その代わりに暖かくて十分に調理されたものと、料理が適当な時に食台に出され、彼らの茶の湯のように、質の上で内容を持ったものとなった。その点は茶の湯に学ぶ点が多いのである。

このことから、これまでの本膳料理は、見るためだけの装飾的なものや、冷たくなって食べられない余分のものが沢山盛られていて煩わしいものだったことが分かる。ところが、当世風の宴会料理は、茶の湯、すなわち懐石から学んで改善されたと言われており、逆にここから改善を促した懐石の特質が浮かび上がってくる。「暖かくて十分に調理された料理」が適当なタイミングで客の前に運ばれるという順序を持った(時系列を持った)料理だということである。ここに懐石の第一の特徴がある。第二の特徴は「余分なもの、煩わしいもの」のない料理、つまり、全て食べきることのできる料理である点だ。食べきるためには、量が適当であることと、食べられない飾りものなどが付かないということが必要となる。そして、第三の特徴は、料理に託された強いメッセージ性である。

様式 酒礼 食事 茶菓 酒宴
本膳 式三献
雑煮、のし、鯛、たこ、するめ、とり、酒
七五三の膳
本膳 飯・汁・七菜二の膳 汁・五菜以下三の膳から七の膳まで約八汁二十三菜
菓子

酒 十七献肴・麺・饅頭
芸能

懐石   (折敷一つを使って)
飯、汁、向付、煮物、焼物、強肴、吸物、香の物、湯、酒
菓子
後段肴、吸物麺酒
芸能
現代の
宴会料理
  口取り、刺身、煮物、焼物、蒸し物、揚げ物、酢の物、酒
香の物
菓子(水菓子)
二次会酒、肴芸能

本膳料理、懐石、現代の宴会料理の比較