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----- あらまあ・・・それは存じませんでした。

徳岡 そりゃもう面白いですよ。目に鮮やかというか、記憶に残るんですよね。それから、鮎の塩焼きって一概に言いますけどね、あれ頭の先からしっぽの先まできつね色にこんがりやくのは・・・

----- むずかしそうですね。

徳岡 京都ではね、昔は色を、焼き目をつけんと焼くという焼き方が多かったんです。それをうちが鮎に焦げ目をつけて焼いてたんです。今、ほとんど京都の料理屋さんでも焦げ目をつけて焼くようになりましたけどね。

----- そうなんですか。

徳岡 昔、四十一年に僕が京都に来るまで、焦がして出してる料理屋さんは少なかった。

----- あら、もったいない。焦げ目がない美味しくないですよね。

徳岡 焦げ目ついてない鮎なんて食べる気イしませんよ。

----- 生臭さを感じますね。

徳岡 そうそう、せやけど何故か京都では、泳いでいるようにいうて串の打ち方もちゃうんです、うちと。

----- そうですか。

徳岡 だいぶもううちの焼き方になってきましたけどね。それでね、一番簡単に焦げるのは、ひれとしっぽなんです。それで焦げ目がつきにくいのは、頭とおなかの裏側です。それを、全体的に頭からしっぽの先まできつね色にする。
魚焼いてる人がちょっとでも気イ抜いたら駄目。

----- はらわたを食べるって。

徳岡 旨いですよお。あのはらわたはねえ、ええ時期の鮎しか食えんのです。ちょっと雨が降って流れがきつなってる時は、鮎は自然の流れに逆らうために石とか噛みますから。石って岩やから。だからジャリっとくるんですよ。やっぱり鮎食べに来てもらうんでも、前日から二日前からシケやいう時にはやめられた方がいいです。絶対に。

----- そうですか。

徳岡 うちは環境のええとこで泳いだ鮎を友釣りで釣ったのをすぐ届けてもろてます。毎年解禁の日は皆素人さんや玄人さんが混じって十二時から釣りはじめまっしゃろ。十五匹から十八匹、多くても三十、四十くらいがせいぜいでっしゃろなあ。けど鴨川の御池橋で百三十匹釣る人がおってねえ。自称名人やけど。

----- ほお。

徳岡 それも釣る鮎がみんな大きい。

----- へええ。それこそ名人ですね。

徳岡 それで、なんでやねん言うたら、「それは企業秘密や」言うてね。後で聞いたら、鮎は多少深いとこに大きいのが来よるんですて。せやからあの御池橋いうのは、全部川底が一定してるように思てんのに、多少深いとこあってね、そこに鮎が来よるんです。一メートル四方のとこに一匹しかおらんのです。

----- 縄張りがあるんですね。

徳岡 ええ。縄張りがあって、こんなちっさな鮎がここに一匹おって、大きいのが来ても、そのちっさいのが出てけ!って当たりに行くんです。ほんなら、こっちから一匹体当たりしてきたんで、釣り上げますわね。それで釣り上げたら、そこへ二十分あと帰ってきいへん。ほんで二十分たったら次の鮎がその縄張りの中へ入ってきて、わしの土地や!言うて・・・。

----- でも最近の鮎は少し変わってるんですよね。縄張りを作らなくなったんです。

徳岡 ちょっと変わってきた。流れのきついとこにおった鮎が、そればっかりやなしに、溜まり場に群れなしておるのが最近増えたんです。

----- そうなんです。これは釣りの世界では有名な話ですね。

徳岡 よう知ってはりまんなあ。

----- 鮎旅行して、漁師さんがその場で釣ったのを浜で焼いていただくんですが、あの美味しさが吉兆さんにはありますね。それがすごいなあと思いますけど。

徳岡 うちね、井戸水も水質がええんですわ。だから川から持ってきて離しても・・・鮎の話てつきませんわ。

-----ご自身鮎お好きですね。

徳岡 好きですよ。いや、食べ物なんでも好きですね。

Great Hotels 吉兆よもやま話(ニ) 徳岡孝二 2002年7・8月号

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