主 人 僕、三十までは独身やった。 編 集 え、そうなんですか。 主 人 給料はええし、暇はあるし、遊んでばっかおりましたわ。もちろん仕事はサボったことはないですよ。仕事もする代わり遊びもするいうのが、ええ男。仕事のでけん奴、遊びも知らん。お姐さん方にもてるというのは…。 まめ鶴 そういうお方どす。 主 人 華やかにやってる人、皆遊びはりまっせ。 まめ鶴 昔は優雅とした。且那衆が居はって。 主 人 めし食うて、そいからお茶屋さん行って、 二次会三次会して、夜中になって雑魚寝して、朝方六時頃、お粥さん行こか言うて「瓢亭」さんへ朝粥食いに行って、そのなごりが瓢亭の朝粥になったんですわ。前は、三日も四日も居続けることあったんです。 編 集 へえ-。 主 人 おとうさん絶対、廓の女性に手出したらあかんで、その日のうちに廓中行き渡るさかい言われた。それ位横の連絡厳しいんです。 編 集 やっぱり出さなかったですか? 主 人 出してません、ほんまに。芸妓さんに限らずスナックでも全然。そやから無事に今まで(笑)。 編 集 あやしい。内緒でということも?(笑) まめ鶴 おとうさん、こうやってるとしやべっておくれやすけど、知らん人やとあまりしゃべらはらん。 主 人 芸妓さんもしやべる人、四、五人かな。お姐さん(まめ鶴さん)と、他、何人かですねー。 編 集 照れ屋なんですね。 主 人 そう、照れ屋。 編 集 照れ屋はイキですよ。照れ屋はいい! 主 人 いや、損や。マイナスやね。いつでも損したなと思うもん。 編 集 まめ鶴姐さんと知り合いになってから何年? まめ鶴 出た時からお店へ寄せてもろてるし、宴会やらでもね。 編 集 まめ鶴姐さんの変遷、おとうさんはわかってらっしゃるわけだ。 まめ鶴 どうどっしゃろ。 主 人 噂、出えへん。 まめ鶴 噂、一つ位無いとあきまへんのやけど。 主 人 こんなきれいなお姐さんが…、僕だけが知らんだけですわ。パーッと有名になるお姐さんもありまっせ。 編 集 お姐さん、 一回も結婚してないんですか? まめ鶴 ハハハ。 編 集 笑ってごまかす。今、独身? まめ鶴 芸妓は皆独身でっせ。 編 集 結婚したらやめなきゃならない。 まめ鶴 へえ。 主 人 「引き祝い」いうのがあるんです。もう芸妓さんやめるというその時に赤飯出して……。 まめ鶴 白いおこわ。 主 人 真っ白か? まめ鶴 引き祝いいうて皆さんにお配りするんどすけどね。真っ白やと二度と戻って来ませんという意味があるんどす。ま、赤飯とか半々の紅白もあるんどすけど。 主 人 ひょっとしたら戻って来んならんから。ハッハッハッ。 まめ鶴 その時はよろしく(笑)。 編 集 やっぱり戻って来る人も。 まめ鶴 居はります。そういう時は「ご存知」いうて。 編 集 ちゃんと結婚してるのに内緒でこっそり芸妓さんやってる人……。 主 人 そんな人もたまにはあるんちがう? まめ鶴 結婚しはってて芸妓さん、そらおへんやろ。 主 人 正式に公表せんでも、内緒で男の人と会うということは……。 まめ鶴 そらねえ。
主 人 これ、わさびの花びらでっせ。毒消し。昔の人は勉強してはりました。 編 集 毒消し、いろいろありますね。 主 人 松平不味公いうたら、三百五十年前でしょ。それでね、不味公の茶懐石の本があるんです。それを、うちの父(湯木氏)が見て二十五歳の時に、目からうろこが落ちたいうて。それまで料理は知ってるけど、日本料理、楽しいということがわからんかった。その本の茶懐石の中の料理の献立を見た時、あーっ、日本料理には季節がある言うて。 編 集 へえ、二十五歳でですか。今の料理を作る人、十年二十年遅いですね。 主 人 そうです。僕ら若い人仕込んだの皆、中学出です。今、吉兆来るの大学出ですがな。大学出いうたら一つの物持ってまんがな。舞妓ちやんと一緒、高校行ったらあかんいろんな知識持ちすぎて。素直に且那さんに尽くすことを覚えられへん。もう早よ結婚したいとか、よそ道それるさかい。
Great Hotels Vol.6 そして、京都。 2003年