霧がかかれば山水画をも思わせる表情を見せる桂川と嵐山。京都の代表的な景勝地に、堂々たる門構えで佇む。 夜は1人4万2000円から。2人ならば10万円にも届く。憧れの地とされるのも当然だが、一見お断りという敷居の高さはないし、明朗会計。開かれた憧れの地である。 時刻は18時。門前には、「吉兆」の文字を染めた法被を纏う男衆が立ち、お客を迎えてくれる。 高らかに響き渡る鳥の声、サワサワと涼しげな音を立てる桂川の流れ。門をくぐる前から耳に入っていたのに、一歩足を踏み入れると、特別な効果音のように聞こえるのが不思議。緑豊かに木々が茂る前庭を抜け、用意された座敷のある棟に導かれる。
惜しげもなく使われる国宝級の器。若主人自ら全国を駆け回って探してくる、最高かつ本物の食材-----。当然、すべての料理に唸るものはあるし、器も見事。ただ、以外なことに、そんな中でも緊張を強いるような空気は、微塵も感じられない。むしろ、軽やかで穏やか。最高峰たるものの、出すぎない余裕とは、こういうことなのだ。
穏やかな空気のなか、時に大胆とも思われる演出で、驚かせつつ、愉しませてくれる。座敷を暗くして蛍を飛ばすこともあれば、台を出して、月見をするという話も聞く。今日もまた、新しい物語がここで紡がれている。
■食後録 男性=雲の上にいるような数時間。「お大尽遊び」をも思わせる料理の演出。 ■ 女性=すべてに華があるのに品がいい。本当の"本物"に出合える、もてなし。
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日経おとなのOFF 「京都で遊ぶ、京都で知る」 2005年10月号