おとうさんの唄と喋りを堪能すべし。

一行は1階カウンターへ移動。イッツ・ショータイム！三味線の名手"祇園ヘンドリックス"こと"波木井のおとうさん"が｢コカコーラばかりがコーラじゃない♪｣と朗唱（下記歌詞カード参照）。『波木井』ヒットパレードは色っぽいものも多いけど、おとうさんは10代から邦楽の稽古事やお座敷芸を身につけた正統派だ。歌舞伎役者もその芸を鑑賞しにくるという大変な人なのだ。艶のある声に一同聞き惚れ、拍手。そこへ人気芸妓の多満葉さんが現れる。
｢ほな、いこか｣。おとうさん、シャンと弦を鳴らし、三波春夫の｢チャンチキおけさ｣の節をとる。唄うはパロディー｢点滴おけさ｣。〜病んだ同士がしびん叩いて点滴おけさぁあ〜♪知ってるメロディには乗らなきゃ損。『波木井』は聞くだけじゃなく、自らも声を合わせて合唱した方がうーんと楽しい。美人の"おかあさん"も芸を披露し、あちこちでご返杯合戦が行われる。
いつの間にか芸妓連れの某クリニック若手院長などもやってきて、場内は満員御礼。おとうさん、クッと腹に力を込め、｢推量節｣をひと節。すかさず、徳岡氏が〜ハッ、推量、推量♪と手拍子で参入。他の常連さんも心得たように｢こりゃドッコイショ！｣（全員手のひらを一点に集中）と息を揃える。最初は戸惑い気味の吉川氏もリズムに合わせるうちに、みんなと一体化。自然にお隣さんとも打ち解け、挨拶してもると、一部上場企業の社長と某交響楽団のコンサートマスターだった。

遊び方を磨かずして遊ぶべからず。

常連さんの慣れた遊び姿に｢すごい、すごい｣と感心しきりの吉川氏だが、当然、誰しも最初は初心者。もし、粋に見えるのだとしたら、それは時間をかけて磨いたものが光っているから。
『波木井』は楽しんで自分を磨ける格好の場だ。小唄や都都逸は教養がなければ笑うことすらできないものがあるし、ふざけた唄でもその中に人間の生き様や人情がある。それを知ることで成長できる。徳岡さんは花街でのマナーをおとうさんに教わったという。
｢祇園で格好悪いことは人間としても格好悪い。高いお酒を空けてエエ格好をするのではなく、ほかのお客様のこと、芸妓・舞妓のこと、お店のすべてを思いやることができる人が格好いい。それを叱ってでも教えてくれるんです｣。
成毛氏が言うように｢京都はお金で買えないもの、信用やご縁を大切にする｣街。おとうさんに認められれば、格式あるお茶屋に紹介してもらえることもまたしかり。遊び方を磨くとは、人間性を磨くこと、と知る京の夜だった。

波木井 京都市東山区祇園町南側570-182　TEL/075-551-0563　営業時間/20:00〜翌1:00　休日/日曜・祝日 1人12,600円〜。芸妓・舞妓の花代は1人1時間18,000〜20,000が目安。料金をはじめ、諸事とにかく電話で相談を。