うちでは、美食の陶芸家として名高い北大路魯山人の器も取り揃えています。魯山人の器だけを使ったコース料理もあります。食に精通していた魯山人は、「器は料理の着物。使ってこそ価値がある」という言葉を残しています。料理を盛りつけたときの構図を絵に描きながら、器をつくっていたのではないでしょうか。
魯山人の器の魅力を一言でいえば「インパクトがある」ことだと思います。独特の色合いや、ひずみやアンバランスな形が特徴ですが、それがかえって、料理と絶妙な相性を生み出しています。
魯山人の作風は、とても自由で独創的です。しかし、桃山時代のやきものをつぶさに研究し、しっかりした基礎があった上で作られたものです。同じ器でも料理との組み合わせ、盛り付け次第で、そのたびに新しい「食の美」を表現してくれます。それがたくさんの人に愛される理由ではないでしょうか。
「お刺身を小皿に分けて盛り付けるものも目先が変わっていいですよ。これはツマで水の流れをイメージしています。器と食材の色合いを楽しみながら、涼やかな気分で料理をいただけます」 (吉兆3代目 徳岡邦夫さん)
紅葉と桜模様の鉢(上) 半分に紅葉、半分に桜が書かれている大鉢。秋は紅葉側、春は桜側を見せるように料理を盛りつけ、テーブルに出すと、季節感が増します。向きによって四季の味わいを変えることができる、重宝な器です。
緑色の皿(中) 中ほどにしょうぶが描かれた長方形の大皿。中央に行くほど皿の緑がカーブしており、独特の曲線美を感じさせてくれます。皿の左右で色合いが違うので、どんな色の料理を、どの位置に盛りつけるかで、雰囲気がガラリと変わり、見る人を楽しませてくれます。
茶色の皿(下) 素焼きの味わいがある大皿です。ざらざらと無骨な表面に、かなり厚みのある一品ですが、持つと以外に軽く、手になじんできます。デコボコがあり、一見粗い作りですが、形が整っていないがゆえに、料理の盛り方によってさまざまな表情を見せてくれます。
もも 暮らしの陶磁器を楽しもう 2006年夏号