1.東屋に面した庭の趣も四季折々に姿を変えて楽しませてくれる。紅葉の時季は嵐山も映して見事に紅く染まる。
2.3.4大正時代に特注したバカラで鮮やかな盛り付けの八寸。水の流れを思わせるツマを飾り付け、魯山人の備前に活気ある盛り付けを施した旬魚のお作り。建都1100(1894年)に京都の名人たちが集まってこしらえたという名作の漆器によそられた艶とおくらの煮物椀。鰹、昆布、塩、醤油だけの吉兆ならではの味がうかがえる。
京都の夢は「芸妓遊び」。花街から料亭に舞妓・芸妓を呼んで船遊びをするのも、粋な興じ方である。
この日、吉兆に訪れたのは祇園の芸妓「照古満」さんと舞妓の「寿々葉」さん。佇まいも所作もじつにしっとりと優美で、心が洗われる思いである。料理が振舞われるなか、お酌を供されながらの会話がまた楽しい。ゆっくりとした京言葉は何ともいえない色気と郷愁を感じさせるものだ。切りのいいところで、舞が披露された。演目は祇園小唄である。"月はおぼろに東山"で始まる定番に思わず顔がほころぶ。
さて宴も一息、表の桂川の静かな水面はすでに漆黒を帯び、空は藍色に染まっている。吉兆から桂川の河原に出ると、すっかり影絵の様な嵐山を背景に浮かぶ屋形船が待っている。芸妓衆を乗せて屋形船が静かに上流に漕ぎだすと、その風景はまるで時代物の浮世絵のようである。ほろ酔いの身に、桂川の風が何とも心地いい。「これからの秋は笛がいいんどす。お月さんを眺めながら、お囃子さんの笛の音に耳を傾けていると、ほんまにええんどす」と、船遊びの秋の贅も教えてくれた。まだまだ京都は遊びつくせない。
Lapita 京都 名店を訪う 2006年No.2