考えると、レストランよりも料亭の方が「恐い」「いけず」と素直な感想を持つ人も多いことでしょう。かつて私自身もそうでした(もちろん今でも時折)。ですが、京都吉兆さんなら心配はいりません。顔を合わせるすべての人が、「お客様と真摯に向き合い、すべてのスタッフがモチベーションを共有すること」と語る総料理長の徳岡邦夫さんのもと、常にお客との円滑な〝呼吸〟のやり取りを求めているからです。したり顔の古株然とした仲居さんに値踏みされる恐怖はこちらには存在しないはず。幸せで満ち足りた時間のために、多くの人が訪れた者をサポートしてくれます。 床の間の掛け軸、生けられた花。眼に鮮やかな料理の数々と器の調和。季節の風景を食卓に映し取った八寸の演出に至ってはこちらの独壇場。しかし、『世界の名物、日本料理』の面目は、そうした眼にみえるモノ・コトではなくて、京都吉兆に漂う〝間〟に違いありません。些細な気遣い、ちょっとした親切がおいしい時間を支えているのです。具体的で妙な例ですが、トイレのアメニティの充実ぶりは海外の一流ホテル顔負けです。 「あなたの幸せとは何か?」を食事の場で共有・表現したいと語る徳岡さんは、同様に「決して偉そうな意味でなく、お客様とお店は対等だと思ってます」とも語ります。なるほど、本当に幸せで愉しい時間が過ごしたければ、何を願っているかをきちんとお店に伝えなければ始まりません。 人の幸せとは、だれかと気持ちを通い合わせ、何かを分かち合うこと。そんなことさえ考えさせてくれる、稀有な〝三ツ星〟、まさに『世界の名物』看板に偽りなし、なのです。
京都を代表する景勝地、嵐山にある、京都の代表的な料亭がいよいよ登場です!一歩中へ入れば、にぎやかしさはどこへやら。物腰やわらかな仲居さんに促されれば、カチコチの心もすっとほどけます。一年の締め、新年の始まり、とっておきのご褒美にしたい場所です。一流の接客に触れることって、一番の贅沢! KIMURA soushin 裏千家茶道を学び、1997年、茶道教室「芳心会」設立。京都・東京で次世代の茶人を育成するかたわら、茶の湯をテーマとした雑誌、CM撮影のコーディネートを手掛ける。近著『茶の湯デザイン』『利休の功罪』(共に阪急コミュニケーションズ)が好評発売中。 http://www.hoshinkai.jp
雑誌名:SAVVY 2010年2月号 98〜99P / 刊行元:株式会社 京阪神エルマガジン社