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総料理長 徳岡邦夫 コラム
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総料理長 徳岡邦夫 コラムCOLUMN from executive chef Tokuoka Kunio

2026.11.02

京都吉兆のおせち

京都吉兆が「おせち」を百貨店などで販売する様になって、30余年が経ちました。

また、2000年を迎える際、コンピュータの誤作動により飛行機の墜落の可能性を危惧して海外旅行を控え、国内で高級「おせち」を楽しもうとする人が増えるのではないか?と1998年から1999年にかけて、「おせち」とは何なのか?と言う本質を探り、年々改善を繰り返し、26年が経ちます。

毎年多くのお客様にご購入頂き、誠にありがとうございます。
もともと私共の様な料理屋には、常連のお客様へ1年の感謝を込めて「おせち」をお届けする文化がありました。

戦後の高度経済成長期やバブル期を経て、家庭で「おせち」を作る事が少なくなり、百貨店や量販店、現在ではネット通販など多様な形で取り寄せる「おせち」が主流となり、『おせちは作るものから買うものへ』と変化していきました。
「おせち」は年に一度しか作らない特別な料理です。

京都吉兆では、伝統を守りながらも毎年、時代の変化に適応しながら進化を重ねる為、元旦からお客様と同じ条件で、自社他社の御節の試食をし、味、食感、風味を比較検証し、次の年末に向けて1年間をかけて創意工夫を凝らしています。

お客様が召し上がる1月1日に最高の状態となる様に、食材の確保、調理方法、工程調整、盛り込み、配送まで、すべて逆算して造り上げます。

特に年末の数日間は、スタッフ全員による総力戦です。
料理を仕上げ、お重に盛り込み、パッキングして配送し、12月31日中に各ご家庭へお届け出来る様に奮闘します。

ここで重要になるのが、「調理から、最長5日後に召し上がって頂く際に、いかにベストな状態にするか」という点です。温度や時間を計り、衛生面は勿論の事、美味しくなるタイミングを逆計算して、味加減、風味、食感などを綿密に計算する必要があります。

店舗でお出しする様な「出来立てをすぐにお召し上がり頂く料理」とはまったく次元が異なる、非常に繊細で難しい作業なのです。

技術、知識、経験、感覚、指導力、チームワーク、集中力、そして情熱。。。京都吉兆のスタッフが持つすべてのスキルと、創業者・湯木貞一の時代から積み重ねてきた技と感性を総動員して造り上げるのが、私共の「おせち」です。

たとえば鮑は、6月~9月の旬の時期に、山口や愛媛から良質でベストの状態の生きた鮑を厳選して仕入れます。
鮮度抜群の状態の鮑の殻を外して丁寧に下処理をし、調味せず、厳選水だけで高圧で炊き上げ煮汁とともに真空冷凍します。
味付け等、最終仕上げは、年末にします。

冷凍の技術が発達している事もあり、冷凍を保存方法と捉えるのではなく、冷凍と言う調理工程を挟む事で、身が柔らかくなり、味がしっかりと染み込んだ、美味しい仕上がりになるのです。

車海老は、2月~3月に生きた状態で取り寄せます。
頭と背わたを丁寧に取り除いて塩湯でし、昆布出汁・塩・砂糖を合わせた、冷却されている液体に漬けながら冷まします。
冷めたら殻を剥き、見た目を美しく整えてから、新たな調味昆布出汁に漬けて真空冷凍します。
この「真空冷凍している時間」も、大切な調理プロセスの一部と捉えています。
その他にも、伊勢海老は8月~10月、イカは2月~3月など、それぞれの食材が最も良い時期に入手して下処理を行い、1月1日に最高の美味しさを迎える様に準備を重ねています。

もともと「おせち」は神様に捧げる供物であり、そのお下がりを人々が共に頂く風習から始まったとされ、お正月の定番となったのは江戸時代と言われています。

黒豆、数の子、田作り、叩き牛蒡の4品をお重に詰め、お屠蘇と共に頂く“祝い肴”として定着しました。

・ 黒豆:「まめ(勤勉・健康)」に働き、元気に過ごせる様に。

・数の子:多くの卵がある事から「子孫繁栄」を。

・田作り(ごまめ):昔、カタクチイワシを田んぼの肥料にした事から「五穀豊穣」を。

・叩き牛蒡:叩いて開く事から「運を開く(開運)」を。

これら欠かせない基本の献立に、日本各地の珍味や旬の美味を重ねたのが現代の「おせち」です。

料理人にとって年に一度しか作る事が出来ない「おせち」は、日本料理の技術や文化を次世代へ継承する為の重要な作業でもあります。

また、一次産業の現場や自治体の方々との交流、食材や調理法を改めて見つめ直し、進化させる為の大切な仕事でもあります。

今年も五穀豊穣、無病息災、そして開運への願いを込め、皆様の新春の団欒が豊かなものとなります様に、心を込めてお造りいたします。

新しい年の始まりに、ぜひ京都吉兆の「おせち」を囲み、絆を深めてくださいませ。

京都吉兆のおせち
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