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総料理長 徳岡邦夫 コラムCOLUMN from executive chef Tokuoka Kunio

2024.03.26

HANA吉兆 「新しい“吉兆貞翁”のお披露目会」

新しい「吉兆貞翁」のお披露目会を、HANA吉兆で開催しました。
まろやかで繊細な味わいの「吉兆貞翁」を、麹の量を変えて、フレッシュでドライな“生酒”にして、更に美味しく!

3月1、2日、祇園のHANA吉兆で行われた[日本酒の会]に私も同席いたしました。
湯木貞一の米寿を祝い、岐阜の白扇酒造に造って頂いた純米大吟醸酒が「吉兆貞翁」です。
最初の酒造りから35年以上が経つ中で、その時代その時代に合わせて、価値の変化を感じながら、造り方を少しづつ適応させて来ましたが、もう一度しっかり足元を見つめ直し、京都吉兆の立ち位置を考え、世界の中の日本料理や日本酒は、どうあるべきか?
京都吉兆の料理に合う日本酒とは?
と問いつめてみました。

3年前から取り組み、試作などしてもらいながら試行錯誤して、やっとその新酒が出来上がりましたので、お客様と共に現行の「吉兆貞翁」や、新しい取組の中から生まれた食用米で造った日本酒などと共に飲み比べながら、春の料理を楽しむ会となりました。


「吉兆貞翁」が作られた1988年頃の日本酒は、今の様な大吟醸、吟醸‥という分類ではなく、特級、一級、二級という分類で、これは日本酒の価格安定の為の国の施策でした。
施行された1943年から数十年が経ち、酒蔵の個性の表現やスキルの上達もあり、消費者の需要と好みも変わった事から、1990年に特定名称酒制度が導入されました。
製造方法や精米歩合、醸造アルコールの添加の有無による区分となったのです。

「吉兆貞翁」は、1988年当初から、精米歩合35%の純米大吟醸基準で造られていました。華やかで香り高いお酒が出来ると言う事で、当時は、多くの大吟醸酒に使われていた「熊本酵母(きょうかい9号)」を使っていました。それを、2006年に作られた新しい酵母「きょうかい1801」に変更し、ドライでまろやかな味わいへと変わりました。

また、日本酒造りには、“火入れ”という作業があり、味にも影響します。
多くの日本酒は、発酵と酵素の働きを止める為に、①絞った後で貯蔵する前と、②貯蔵後で出荷前の2回火入れをします。
しかし、冷蔵技術が発達した現代では、低温保存が可能になったので、火入れをしないで出荷する事も可能になりました。
これらは“生酒”と言われ、最近よく目にしますね。

今回、味わった新しい「吉兆貞翁」は、麹の量を減らし、時間管理も整えて、火入れをしない“生酒”での提供でした。
飲み比べてみると、新しい「吉兆貞翁」は、ドライですっきりした味わいで、以前のものは、火入れをしていたので、メーラード反応をして、甘みが増していた様でした。
今後は、生酒にして、マイナス3度で保存する事を厳守する事が、良いのではないかと考えています。
参加されたお客様も「新しい吉兆貞翁の方が、気品と繊細さの中にコク、まろやかさがあり、サッと引く後味がいい」とおしゃる方が多く、特に蛤のお椀ととても相性が良く、より美味しくなる!と好評でした。

また、食用米「つや姫」と「にこまる」で試作したお酒もお出ししました。
日本酒は酒米でないと出来ないと思っていましたが、これが意外と美味しく出来上がっており、新しい日本酒の可能性を見出した気がしました。


「吉兆貞翁」も食用米の日本酒も、造り方、保存方法など、もう少し様子を見ながら、私も日本酒について学び、進化させていきたいと思っています。
参加されたお客様からは、「いつもの日本酒が、変わっていくスタートの現場に同席できた」と喜んで頂きました。
私も、お客様と食事を共にし、酒を酌み交わし、いろいろお話を伺う貴重な機会を頂きました。
ありがとうございました。

今後もこの様な席を企画したいと思います。