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特集日本文化創造プロジェクト嵐山本店 座敷「待幸亭」大改修
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生まれ変わった 天井画 CEILING ART

「待幸亭」 最大の見どころ
生まれ変わった天井画の軌跡

このたび、日本画家・森田りえ子氏の作品へ新調しました 「待幸亭」 の天井画。 その作品 『天の川』 が誕生するまでの壮大なストーリーを紹介いたします。

老朽化が進んだ天井画を新調する

旧 「待幸亭」 の天井画は、扇子職人 中村松月堂14代・中村清兄による 火事除けの意味が込められた “流水” をイメージした作品でした。俵屋宗達が祖である琳派の感性や、川を紅葉が流れる図案 「竜田川」 にも通じる素晴らしい描写に加え、造りも大変凝ったもので、地板に純金箔、その上から薄い和紙を貼り、膠 [にかわ] で波の絵を描きあげ、さらに上から銀箔を押し、色止めには明礬 [みょうばん] が塗られていました。



しかしその見事な天井画も、60年の時が流れ、全体的にセピア色に変色し、銀箔は黒くなり、汚れも目立ち、まさに老朽化していました。



天井画をどうしたらよいか、暗中模索していた中、元々ご縁のあった森田りえ子先生に相談をしたところ、「素敵なお仕事!私がやります!」 と即答してくださり、新しい天井画を描いていただくこととなりました。

数々の作品展で受賞歴があり、個展も多数開催され、金閣寺本堂の杉戸絵や客殿天井画も手がけられた、日本画壇において最も注目されている日本画家のお一人 森田りえ子先生。

創業者 湯木貞一の想いや、先人の技を受け継ぐためにも、元の天井画の造りを再現する形で、新たな “流水” を描きたいとご提案いただきました。

日本画家 森田りえ子氏


日本画家 森田りえ子氏
オフィシャルサイト
兵庫県神戸市生まれ。
四季を彩る花々や、京都の伝統文化を受け継ぐ舞妓達、エキゾティックな女性像等卓越した描写力で表現する日本画家。
現在の日本画壇において、次代の日本画を託される画家として世界的に注目されている。

天にある流水といえば 「天の川」

京都吉兆の本店は、嵐山を借景に大堰川 (桂川) にかかる嵐山のシンボルともいえる渡月橋が一望できます。だからこそ、湯木貞一も旧天井画を描いた14代中村清兄も、天井に流水をイメージした絵を、欄間には、渡月橋を模した橋の欄干 [らんかん] を施したのではないかと、森田りえ子先生は推測。

そこで新しい作品は、尾形光琳の 『紅白梅図屏風』 に描かれている流水にも通ずる、琳派の巨匠、光琳へのオマージュを込めた “流水” に。そして、天(井)に流水の画を描かくことから、今回のテーマは 「天の川」 となりました。

▼ 「天の川」図案               

先代の技法を取り入れ、
新しい感性を生かす

天井画制作は、旧天井画の造りを引き継ぐため、ベースとなる板作りから始まりました。

元からある格天井の板は、経年で歪みやたわみが出ており、1枚1枚サイズが異なることが判明。そのため、全ての天井板の枠を測り、新しい板を用意し、一度天井にはめ込んで配置確認をしてから、地板作りを開始。その地板は、表具師である陽光堂 伊藤清人氏にご担当いただきました。



まずは板に和紙を貼り、その上から金箔を、さらにその上に世界一薄い紙と言われる土佐の典具帖紙 [てんぐじょうし] を貼って、金潜紙 [きんせんし] に。天井に掛けられた際にちょうどよい透け感、風合いに仕上がるよう、典具帖紙を3種用意いただき、総料理長 徳岡と女将が、森田先生と共に塩梅が良い極薄の伝統的な料紙を選び、地板 (金潜紙) が完成しました。


その後地板は、森田りえ子先生のアトリエへ。ここから “流水” の制作が始まりました。

森田先生は、地板の金潜紙に “流水” を描く画具の選定から、苦労されたといいます。
旧天井画は、銀の画具が使われていたので、どうしても時が経つと黒く変色してしまいます。それを避けるために、森田先生は、安定した色合いが出せるプラチナで流水を描く予定でしたが、「銀は使わないの? 経年からくる味わいも良いのでは?」と徳岡。数年後または数十年後、程よい変色が起きることで “寂び” も楽しめるように その提案通り、プラチナと銀を用いることになりました。
このような調合は、森田先生も初めてとのことでしたが、時が作る変化にも美しさを見出す徳岡の感性に共感し、プラチナと銀泥を配合して “流水” の描画が始まりました。



しかし、実際にプラチナと銀で描き始めると、金 (金潜紙) の上では色が立たないことが判明しました。そこで森田先生は、墨を足すことに。

さらに、 “たらし込み” という技法も取り入れることで、強弱や濃淡を加えました。流水模様に水をたらすこの技法は、水滴を落とした瞬間に色がパッと広がり、滲んでいく−−。 「その様は、まるで小さな星の誕生のようにドラマチックでした」と森田先生。


こうして深みが増した流水には、その後、銀とプラチナの箔を篩 [ふるい] に掛けた4種類の粗さの異なる砂子を幾重にも撒くことで、「天の川」 の銀河が幻想的に表現されました。



趣向を凝らし美しく表現された流水は、見る角度や天気、昼夜の光の具合によって、金色や銀色、そして墨らしさと、さまざまな表情を見せる天井画に。



さらに最後の仕上げには、二間続きに描かれた流水を渡る橋 (部屋を仕切る欄間) を挟み、離れ離れになった織姫と彦星を表す2つの星が 『天の川』 を挟んだ両岸に描かれました。
これから「待幸亭」を訪れるお客様に、天井を見上げて2つの星を探す楽しみを… と、森田先生の粋な遊び心が込められています。

天井画、 そして 座敷「待幸亭」が完成

新しい天井画は、旧天井のイメージを損なわず、できるだけ先人の仕事を踏襲するよう作業を進めていただきました。しかし、最初の建築から150年、湯木貞一が手を加えてから60年以上が経過しており、どのような素材が使われたのか? どのような作業が行われたのか? 分からないことも多く、森田先生をはじめ職人方を悩ませることもありました。


今回の改修には、大工、漆師、表具師、唐紙職人、洗い師など、主に10種20名以上の職人方が集結。それぞれ作業内容は様々でしたが、吉兆の歴史を読み解き、徳岡の想いを感じ取り、“共通言語”を持って作業を行なっていただいたことで、それぞれの高い技術が相乗効果をもたらし、このチームでしか成し得ない、素晴らしい座敷が完成いたしました。

完成記念 特別対談より



日本画家 森田りえ子氏 コメント

天井画が、喋りすぎず (=目立ちすぎず、主張しすぎず) 、襖や床の間などとうまく調和し、素敵なお部屋になっていてほっとしました。伝統的な日本画の技法をもちろん使っていますが、アレンジをして描いた部分も多くあります。



「待幸亭」は多くの匠たちの、努力と技と智慧の積み重ねの上に完成したお部屋だと思います。まさに日本人の忘れかけている美意識の最高峰です。 そんな非日常の世界の中で極めつけのお料理を楽しめるなんて素晴らしい事ですね。

私も「チーム待幸亭」のお仕事の一役を担える事ができ光栄に思っております。ありがとうございました。



総料理長 徳岡邦夫 コメント

プラチナと銀を混ぜ合わせるだけでなく、さらに墨を合わせることで、水流に陰影や濃淡ができ、微妙なニュアンスが生まれた天井画は、まず “凄い!” の一言です。きっと時が経つにつれて、もっと立体的な絵柄になり味が出てくると思います。100年後、どんな天井画に、どんなお部屋になっているか楽しみでなりません。



日本の職人の世界は分業で行う作業がとても多く、今回の改修でもさまざまな職人の方に関わっていただきました。一流の技を持つ職人の方達が、「待幸亭」というお部屋全体のバランスを取りながらそれぞれの仕事をしてくださいました。まさしく職人のチームワークの素晴らしさが、このお部屋に詰まっています。

また、日本文化を継承する職人の仕事は、今では依頼も限られ、後継者も少なく、厳しい業界でもあることを再認識しました。料理人もそうですが、職人の仕事も数値化が難しい部分があり、感覚的に覚え、作業することが多い仕事です。最初は、お部屋の改修することしか考えていませんでしたが、日本文化を守る職人の技を次世代に引き継ぐためにも、記録として残しておかないといけないと思い、動画で職人の方達の仕事の様子を収めさせていただきました。この動画も一つの作品になったと思います。

歴史に残る、本当にいいものができました。
森田先生、職人の方々に感謝申し上げます。ありがとうございました。

嵐山本店 座敷「待幸亭」大改修