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嵐山吉兆の総料理長、徳岡邦夫に聞く
海外に日本料理を伝えようと、昨年秋からイタリア、スペインと精力的にイベントに参加した。そして、9月1日、日本料理に魅せられたある一人のスペイン人シェフ(ルイス・ガルシア・モレノ氏)が、吉兆の厨房に足を踏み入れる。研修期間は3ヶ月。言葉も文化も違うシェフが、果たして日本料理の真髄をどれ程会得することが出来るか。我々の挑戦は今正に始まろうとしている。ルイス氏の来日を数日後に迫ったある日、徳岡氏にその胸中を聞いた。 |
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問:ルイス氏を受け入れるに当たって思うことは? 回:正直、実際に来て、会って、話してみないと全く判りません。日本料理を学びたいということは知っているし、その為に遥々日本まで来るわけですが、本当に日本料理、日本文化を理解できるのか、今はまだ私も彼も手探り状態だと思います。
また、日本料理といっても、スペインでのプレゼンテーションが全てではありません。寧ろ、あの時に披露した「八寸の盛り込み」は、ほんの一部でしかありませんし、限られた時間で紹介できることには限界があります。
更に、今日本料理が世界的にブームと言われている中で、我々から見て及第点を挙げられる海外の日本食レストランは、数えるほどしかありません。真の日本料理が伝わっているとはお世辞にも言い難いのです。しかし、本物を知らない人に、それが本当の日本料理ではないと幾ら言っても聞く耳を持たないばかりか、先ず、それを本物かどうかを見極める人も海外には居ません。
そういう状況の中で、何を以って日本料理に惹かれ、興味を持ち、そして、今回の研修で何を勉強したいのか。前例の無いことで、予想を超える事態も起こり得ると思います。しかし、そういう中でも、少しずつ歩みよりながら、お互いの気持ちを理解しあう努力をし、最終的には双方にとって貴重な体験、得難い時間になれば良いと思っています。 |
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スペインだけでなく、今や世界的に有名なシェフ、フェラン・アドリア氏は、嘗て吉兆で食事をして吉兆に惚れ込んだ。吉兆にぞっこんな人は、世界中にたくさんいる。そういう人たちの言動に触発されて、日本料理を試してみた人も少なくないだろう。しかも、吉兆ではなく、自国で。初めて目にした東洋の美。西洋にはない感覚。果たして、彼らには一体どの程度日本料理というものが伝わっているのだろうか。 |
問:海外の人たちの日本料理に対する反応について 回:日本料理は、西洋料理の盛り付け方とは根本的に異なります。その究極が、今回のイベントで披露した「八寸の盛り込み」です。お皿の上を2次元空間として考えるのではなく、3次元空間として捉え、一皿を完成させて行きます。
昔から伝わる手ほどき書には、盛り込みの方法として、「陰陽五行学、五色、五味、五方」が必要だと言われています。「陰陽五行学」とは、中国の古来の考え方で、簡単に言えば、「それぞれがバランスを保ち互いに存在しあっている」という事だと思います。盛り込みに関しても、料理のバランス、例えば、魚の料理ばかりではなく、野菜物、肉物など、食材のバランスや味覚のバランス、盛る方向のバランス、色のバランスが整っている事が大事であるという事です。そして、忘れてならないのが五感です。つまり、私的に言うと、「陰陽五行学、五色、五味、五方、五感」となり5つの要素が絡み合ったものが必要だと思います。さしずめ「盛り込みの5法」とでも言いましょうか。 ところが、デモンストレーションなどをすると、インパクトがあり、パッと目を引く、見せるべくして作った部分のみが印象に残り、そこに介在する「盛り込みの5法」や、日本文化の精神性、思想までは、なかなか伝わりにくいです。また、最近では、「日本食はヘルシーだ」と言われていますが、「何故ヘルシーなのか」という部分については、あまり知られていません。 |
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日本料理が世界で認知度を高めつつある中、次なる目標は、その真の魅力、料理の根底にあるもの、料理技法、日本の精神文化などについてより詳しく、そして、日本を丸ごと理解してもらえるように。その為に今出来ること、これからすべきことは何だろうか。 |
問:今回の研修に期待すること 回:僅か3ヶ月という短い期間で、日本を全て理解してもらうことは到底不可能ですし、それを期待しているわけではありません。しかしながら、日本という地で、本当の日本文化に触れて、その奥深い部分に少しでも興味を持ってもらいたいと思います。そのきっかけ作りとして、料理は勿論、生花、習字、茶事などを計画しています。そして、将来的には、スペインに戻った彼が、ザビエルのように日本文化の伝道師的な存在になってもらえるなら、とても素晴らしいことだと思います。 日本料理は敷居が高いと言われていますが、学びたいという気持ちを持っている人であれば、国籍や人種を問わず、出来るだけ勉強するチャンスを提供したいと思っています。今日の競争社会の中で、競い一番になるのではなく、交流し、夫々の良いところを取り入れ、融合しながら、洗練された、そして、唯一のものを作り上げて行って欲しいし、私自身も同じように進化し続けたいと思っています。 |
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