榊美 「このお団子、黄味餡よ。切り口がお月さんのようね」 鈴木 「振出しは斑唐津ですか」 橘 「薄の蒔絵で、形自体が真ん丸の月、酒落てますな」 橘 若女将のお点前で一服よばれるのは嬉しいですなあ。 若女将 どうぞお楽になさってください。ふつつかなお点前ですので、和尚様、あまり私のお点前はご覧になりませんように。 橘 ハハハ……。貴女もお気楽に。それにしても、籠から次々に名品が出てきますなあ。やあ、若主人、振出しを取り次いでいただいて恐縮です。 若主人 私はこれから、調理にかかりますので、あとの取り次ぎはお詰さんにまかせます。 橘 いやいや、堅苦しいことは抜きにして……、どうぞ行ってください。皆、あとのご馳走も期待していますのでね。 若主人 失礼いたします。 若女将 お菓子、どうぞお取り回しを。 橘 頂戴いたします。ほほう、月見団子ですなあ。鈴木さん、お先です。…菓子器の彩りが美しいですな。それからこの振出し、斑唐津ですかね。ここのところは、窯の中でくっついたのを剥がした痕のようですな。巧まずして景色になっておるね。
若女将 「ふつつかなお点前ですので、和尚様、あまり私のお点前はご覧になりませんように」
鈴木 「菓子器は色絵祥瑞ですか。色がすっきり鮮やかですね」
榊せ 「色絵薩摩の可愛いお茶碗ですこと」
淡交 別冊 茶籠と茶箱 「月」に寄せて 亭主=徳岡邦夫 2003年 6月号