橘 「 棗は秋草蒔絵ですか。地に蒔いた金の粒が大きいねえ。」
榊美 「葵文の帛紗は、掛物に合っていますね」
橘 お道具拝見を……。両器と籠、先程お願いした他に、香合と建水も。 若女将 後ほど清めまして……。 榊美 茶箱のお点前って、ややこしくてイヤという方もおありのようだけど、お客だと、とても楽しいですね。 鈴木 私は一時期、茶籠を組むことに夢中になったことがありましたが、凝りだしますとキリのない世界です道具の格や寸法を考えながら組み合わせていくのが、無限の楽しさなのですがね。 榊せ それが醍醐味なんでしょう。 鈴木 ええ。仕覆の裂までとなりますと、手に余るのです。深みにはまりますと、もう本当に大変です。 橘 では、棗、茶杓、籠から拝見いたしましょう。次容さん、お先に。棗は秋草蒔絵ですか。地に蒔いた金の粒が大きいねえ。
橘 「籠の内張りは相当古いようですな」 若女将 「時代の金襴でございます」
橘 「茶碗はどれも小さくて、掌に隠れてしまうね」
鈴木 ていねいな仕事がしてありますね。 橘 この茶杓はよい色になっておるなあ。 鈴木 象牙の茶杓によくある笹の葉です。時代がついていますね。 橘 籠の内張りは相当古いようですな。 若女将 時代の金襴でございます。 橘 金具は七宝の意匠だね。茶筅筒の蒔絵の扇面の中に、ようこんなに細かく絵を描き込んだものですなあ。茶巾筒の底に乾山の署名があるけれど、初めから茶巾筒として造ったのかな。 鈴木 茶巾筒として注文があって造ったのでしょうか。 榊美 葵文の帛紗は、掛物に合っていますね。何か由緒がございますの。 若女将 玄々斎が下鳴神社より拝領されたとの由です。 榊美 そうですか。葵祭の頃にもよろしいけれど、今日のお取り合わせにもぴったりですよ。 若女将 おそれ入ります。 橘 この黒の平茶碗、楽のどなたです? 若女将 慶入でございます。 橘 茶碗はどれも小さくて、掌に隠れてしまうね。 鈴木 私がお茶をいただいたこの脚本茶碗も、手に納まってしまいます。 榊せ 私は色絵薩摩、お母様は祥瑞。 徳岡孝 祥瑞は小振りでもどっしりと、呉須もよう出て、見事な風格ですわ。
淡交 別冊 茶籠と茶箱 「月」に寄せて 亭主=徳岡邦夫 2003年 6月号