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榊せ 「これはもともと香合だったのかしら」
鈴木 「肉池では……」

榊美   この小さい堆朱の香合、彫りの精巧なこと……。
鈴木   樹下人物文ですか。榊さん、裏側もご覧になってください。
榊美   裏にも彫りがございますね。
鈴木   両面に彫りがしてあります。片面は樹下に人物が二人、もう一面は一人。
榊せ   これはもともと香合だったのかしら。
鈴木   肉池では……。
若女将  はい、印肉を入れる器の転用のようです。
橘    菓子器は色絵祥瑞ですか。
若女将  さようでございます。
橘    真ん中に兎が描かれて、珍しいものですな。これ、五枚組になっていたのかなあ。
若女将  これは一枚で伝わってきたようです。
鈴木   明末清初のものでしょうか。
若女将  はい。清初のようでございます。
橘    建水もこれまた小さいが、形が整っておりますな。製は……。
若女将  砂張でございます。
鈴木   煎茶の建水のようですね。
若女将  はい、そのようでございます。
鈴木   和尚様、これはしてはならないことですが、お許しをいただいて、ちょっと指ではじいてみてください。いい音色がするはずです。

橘    「真ん中に兎が描かれて、珍しいものですな」
鈴木   「明末清初のものでしょうか」
若女将 「清初のようでございます」
榊せ 「建水が小振りで可愛らしい」
鈴木 「茶籠の中に楽に納まる寸法です」

 

 会 記 亭主・徳岡邦夫

掛物 岩佐又兵衛筆 在原行乎
花   薄 菊
花入 塗金銅尊式 秦蔵六造
薄板 黒丸香台
香合 堆朱 樹下人物
金つづれ古帛紗にのせて
風炉先 桑 銀宝尽し市松腰
瓶   南鐐 亀甲鎚目
瓶掛 蔦絵杉木地
茶籠 時代和組内張り時代金襴 七宝
紋金具
盆  淡々斎好 銀杏盆
茶筅筒 扇面蒔絵
茶巾筒 乾山 銹絵
棗  時代秋草小棗
茶杓 象牙 笹の葉
茶碗 黒平 慶入造
替  御本
祥瑞
色絵薩摩
黒 長入造
古帛紗 二葉葵文 下鴨神社より玄々斎
拝領
建水 砂張
菓子 月見団子
器   色絵祥瑞
干菓子 こんぺいとう
振出し 斑唐津
干菓子 兎(押物) 枝豆(洲浜) 伊織製
器  薄蒔絵小銘々盆

橘    ほんまに、有難い音がする。
徳岡孝  涼しい音色で、余韻を引きますなあ。
橘    やあやあ、お心入れの取り合わせで、いずれも結構でした。眼福を得まして有難いことでした。
若女将  月の出をお待ちになります間に、見つくろいまして、粗飯を差し上げたく存じます。
徳岡邦  どうぞ、お箸、お取り上げを。
橘    皆さん、いただきましょう。
一同   お相伴いたします。
橘    向付は菊形の赤楽ですな。五客揃ですか。
徳岡孝  いや、もうちょっとございます。
橘    こりゃあ失礼。こちらのお蔵は深いですからなあ、お料理はもちろん、器も楽しみです。
徳岡孝  器も仕事の内ですから。
鈴木   向付が菊花で季節の余韻を感じます。
榊美   お汁は小芋ね。
榊せ   結構なお加減ですわ。
若女将  一献、どうぞ。
橘    有難う。
若女将  鈴木  先生、どうぞ。
鈴木   燗鍋の造りは霰ですね、お作は?
若女将  古道弥作でございます。
徳岡孝  霰尻張です。替蓋がね、古染付と黄瀬戸掘の手と、二つ添うてます。どうもこの古染付の蓋に合わせて燗鍋を鋳させたようですな。

淡交 別冊 茶籠と茶箱 「月」に寄せて 亭主=徳岡邦夫 2003年 6月号

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