2022.11.02 お知らせ
このたび、京都吉兆 嵐山本店では、座敷「待幸亭」の改修を開始いたしました。
部屋そのものが文化財ともいえる“書院造”はそのままに、天井画や設えを新調。2023年春には新しい部屋としてお目見えいたします。
生まれ変わった「待幸亭」では、お披露目茶会や食事会の開催も予定しておりますので、皆さまどうぞお楽しみに。
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総料理長 徳岡 邦夫 より
歴史的建築物である京都吉兆 嵐山本店にある建物「待幸亭」は、元々、明治初期に建築された旧染谷寛治別邸で、松下幸之助氏から茶室と書院造りの建物を吉兆 創業者 湯木貞一が譲り受け、1962年に嵐山に再築されました。現代では再現が難しい技術や素材がふんだんに使われており、いわば、造りそのものが文化財とも言える建築物です。
最初の建築から約150年が経った「待幸亭」も老朽化が目立ちはじめ、改修することにしたのですが、流水をイメージした天井画をどうしたらよいかを暗中模索していました。そんな時、これまでのご縁で、日本画家・森田りえ子氏に新しく天井画を描いていただけることになり、新しい天井を張り替えることに合わせて、床の間、襖、障子の張り替え、壁や漆の塗り直しなど、各所の改修を行うことにいたしました。これらの作業は、知識と経験が豊富な京都の匠たちが、丁寧に仕事をしてくださいます。
今回、作業前の打合せを重ねるうちに、改めて日本文化、伝統について考えさせられました。そして、各種専門の職人さんの技術や感性の素晴らしさを、多くの人たちに伝えなければ、人類が永く健全に存在し続けるのに必要な日本的価値が、未来に繋がらないと感じたのです。
これまでも京都吉兆では、日本の文化を守り伝えていく立場として、さまざまな活動に取り組んでまいりました。今回の改修についても単なる建物の修繕ではなく、日本美術や日本建築を未来につなぐ取り組みとして位置付けています。
そこで今回、この「待幸亭」の改修を通して、お一人でも多くの方に日本文化に触れていただきたいと考え、クラウドファンディングにも挑戦することを決意しました。皆さまのご支援も頂きながら「待幸亭」を改修し、日本文化の継承に取り組んでいきたいと思っています。
日本文化は、難しく、普段の生活から遠く離れたものでは決してありません。日本文化の感性や感覚は、どこかで誰しもが持っているものと私たちは考えています。女子高生を中心に世界に発信している「kawaii文化」も関係があると思います。
今日まで受け継がれてきた日本文化の「根源」「本物」を知ることで、新たな創造意欲が生まれたり、普段見ている景色が少し変わって見えたりする。このプロジェクトがそんなきっかけになれば幸いです。
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座敷「待幸亭」とは
「待幸亭」は元々、松下電器産業の創設者 松下幸之助氏より譲り受けた建物を1962年に移築し、一部を設え直した部屋です。
書院造の特徴である “縁側板” や “化粧軒裏” は移築前の姿を残し、“天井画” や “床の間” “欄間” “釘隠し” “襖” などには、座敷としてのこだわりを随所に施しました。
▼ 京都吉兆 嵐山本店 座敷「待幸亭」
吉兆 創業者 湯木貞一は、こちらを 遠州流茶道の祖・小堀遠州の色紙を飾るのにふさわしい部屋として、色紙の歌にちなみ「待幸亭」と名付けました。
― 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの 御幸待たなむ ―
天皇がお越しになること=「行幸」を待つ部屋として、最高の方をおもてなしするための、特別な書院造の一室。 床の間の壁面には、遠州流の家紋である七宝柄の “唐紙” が敷き詰められています。
▼ 京都吉兆 嵐山本店所蔵 書:小堀遠州『小倉山色紙』
また部屋の見どころである天井画は、扇子職人 中村松月堂14代・中村清兄による作品。火事除けの意味が込められた『流水』です。
その描写は、俵屋宗達が祖である琳派の感性や、川を紅葉が流れる図案「竜田川」にも通じ、‘小倉山の紅葉が川に流れる様子’ をも連想させる風情があります。
さらにその造りは凝ったもので、地板に純金箔、その上から薄い和紙を貼り、膠[にかわ]で波の絵を描きあげ、さらに上から銀箔を押し、色止めに明礬[みょうばん]が塗られています。下地の金箔が薄い和紙を通して上品な風合いを醸しだす、貴重な文化財といえます。
▼ 中村松月堂14代 中村清兄作「待幸亭」の天井画『流水』
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「待幸亭」の改修概要
このたび、移築されてから60年が経過し、老朽化が進んだため、各所でメンテナンスが必要となり、大規模な改修を決定いたしました。
前述の天井画『流水』は、今年で見納めに。新たな天井画には、日本画家・森田りえ子氏に描画を依頼しております。四季の花々や京の風景を得意とし、日本を代表する日本画家である森田氏が、「待幸亭」に相応しい作品を描き上げてくださることとなっております。
その他、床の間や建具、設えの改修は、天龍寺・妙心寺の改修も手がけた「京都 匠」の伊藤氏に依頼。漆、唐紙、洗い、左官など、京都の熟練の技を集結しております。
▼ 2022年に見納めとなる「待幸亭」の几帳
▼ 2023年の改修後にも残される設え / 襖の引き手(上)は、小督の局にちなんだ「琴柱」をモチーフにしたもの / 釘隠し(下)の下絵は、 中村清兄作
貴重な日本美術や日本建築を保護・保存するためにも、壮大なプロジェクトとして進行中の「待幸亭」改修について、今後、随時発信も行って参ります。
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京都吉兆 文化広報課