
四季折々の風景が楽しめる京都・嵐山。その一画にある『吉兆』は、 日本を代表する料亭のひとつ。茶道の精神を基に、新たなるチャレンジを続ける『吉兆』の「おもてなし」に一流の証を見た。
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夕闇がせまる頃、露地には打ち水が打たれ、灯籠が灯り、客を迎える準備が整う。 |
『吉兆』は湯木貞一氏が創り上げた「花鳥風月に心を求めた料理」で、日本の代表的料亭として名声を博している。
茶料理の季節感に感動した、若き貞一氏が丹誠こめた『吉兆』の料理は、ある意味で、それまでの日本料理を変えたといっても過言ではない。今、その子弟が二代目、三代目として『吉兆』の歴史を継いでいる。
旬の素材で調理された、季節感のあふれる料理。料理を引き立てる高級な器類や、座敷のしつらえなどが魅力なのはもちろんであるが、それだけでここまで人気を不動のものにはできなかっただろう。
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「嵐山吉兆」の若女将。『吉兆』の創業者・湯木貞一氏の次女の長男である徳岡邦夫氏の夫人。歴史と名声のある『吉兆』の若女将としてプロフェッショナルなおもてなしに心をくだいている。 |
心地よいひとときを演出する
季節ごとの料理と器選びが重要。
『吉兆』のもてなしの根底に流れているのは、茶の湯である。その精神が『吉兆』を訪れた客の心をとらえて離さないからに違いない。
「茶の湯のおもてなしは、茶事のなかにすべてが包合されています。亭主とお客が互いの心をいたわりつつ、一座を建立しようとする心情こそ、茶道の”核心”なのです。このような心の交流を持てるよう日々修養しております」
現在、『嵐山吉兆』を任されている徳岡邦夫氏は、湯木貞一氏の孫、若女将は邦夫氏夫人である。
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露地置きの灯籠。客の足元をほのかに照らし、玄関へ導く。 |
「いかにお客さまの雰囲気に合ったおもてなしで、料理を楽しんでいただくか、最初のお膳をお出ししたときに、お客さまの好みや雰囲気を瞬時に察し、ケースバイケースの接待、ということに心を尽くします」と若女将。
素晴らしい料理や器を備えても、客の求める雰囲気に合っていなければ、客の満足を得られない。それは、家庭でのもてなしでも同じだろう。邦夫氏は若いときから茶道を学んできた。新年のおもてなしは?と問うたときの答えにも、それがうかがわれる。
「まずは掃除がお茶の基本です。特に新年は、輝かしい希望を持って巡ってきます。神々しさと古典を考慮に入れ、本紅の紅白水引など、相変わりませずの飾り付けでお客さまをお迎えします」
家庭でも紅白の水引をいろいろ活用すると新年らしいおもてなしができるのでは、とアドバイスしてくれた。
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庭の風景もおもてなしのひとつ。磨き抜かれた漆の卓に、庭のこぼれんばかりの萩が映し込まれている。 |
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江戸中期の楽家七代・長入作の筒茶碗。旬の花とのコラボレーションで歴史の積み重ねと、一瞬の今の融合を表現。次代を担う邦夫氏の課題という。 |
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秋の八寸(口取り)。旬の食材と秋の野の花で飾られた盆は、見事な秋景色を創出。 |
季節や客に合わせて取り替える掛け軸。武将・小堀遠州筆の『小倉色紙』。「小倉山 峰のもみじ葉 こころあらば 今ひとたびの みゆきまたなん」 |
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