「世界乃名物 日本料理 吉兆」。創業者であり、昭和の名料理人と名高い湯木貞一氏は、日本文化とご自身の店を守り立て鼓舞するために、このコピーを作ったと伝わる。現在は孫の徳岡邦夫さんが「京都吉兆」の若主人。嵐山は、自然が織りなす風情豊かな名所であり、その奥に約600坪の敷地を擁する屋形が嵐山本店。料理の座敷という場にふさわしく、室町時代の備前鉢や北大路魯山人の器に料理を盛り、床の間には江戸初期の軸が掛けられる。さらに、目の前で松茸を焼くなど華やかな演出が。その「見て味わう」要素に加え、邦夫氏を筆頭に、華やかでありながらもしみじみと心に訴える品々を生み出している。ワインも豊富、料亭の新たな革新が始まっているのだ。
|
日本の職人の精緻が結集された一室。天井はすす竹で温かみを持たせ、郊外の自然の中に佇むことを漂わせる。一方で、襖などには明るい金に紗を重ね、静かな華やぎを演出。
|
床の間の軸は、主人がお客様を迎えるうえで、その時々の気持ちや季節の風物を題材とした内容が。秋の月に何を想う・・・見る側の教養も問われ、少しは学んでおきたい、と大原さん。
|
|
-窓辺に広がる庭の緑に目を凝らす。嵐山の山や川の自然の匂いが、体のすみずみまでしみわたる。「庭を前にすると気持ちが解き放たれていくんです。背筋もシャンとして、意識も鮮明になる気がするの(笑)」大原千鶴さん。京都・花背の料亭「美山荘」に育ち、現在は2児の母としても奮闘中の料理研究家。子育てと日々の営みに追われる最中、改めて今、料亭に心が向かうという。
「料亭には日本の文化が結集されている。屋形の造りから、表具類、お軸や花の設い、料理、器・・・。そういう日本人の源流的な文化に包まれると、ふっと自分を取り戻し、気ぜわしい日常がリセットできるように思うんです」
なかでもここ、京都吉兆嵐山本店は「設いの精緻さ、庭の手入れの行き届き方、料理を運ぶ人の所作まで、すべてが完璧。きちっとしているだけじゃなく、華やかさがあるんです。”ほら、楽しいでしょ”という提案がいつもある。オペラのような華やかさです」
ひと口に料亭といっても、能のようなストイックさを感じる店や侘び寂の世界に通ずるような印象の店もある。大原さんが吉兆を女性にすすめるのは、寸分の隙もないほど完璧でありながら、庭や室内の雰囲気に、総じて優しさと明るい華やぎが感じられるからだそう。
「ただ、知識がないと充分に楽しめないですよね。お軸や花にしても内装の材木にしても、なぜそれがそこに使われているのか理解できないとね。だから、日々の暮らしの中で知性と教養を身につけなければならないなぁと思います。料亭は大人の女としての格が問われる場所。だからこそ訪れて、日本文化を吸収し、自分を磨く機会にしたいですね」 |