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初春の初子の今日の玉箒
手に執るからにゆらく玉の緒

大伴家持が『万葉集』巻二十で詠んだ歌です。
中国の古いしきたりには、お正月の初子の日に、天子みずからが豊饒を祈願して田を耕し、皇后が蚕部屋を掃いて蚕神をまつる儀式があったと伝えられてきました。玉箒はこの儀式で用いられた箒で、正倉院宝庫には何品かの玉箒が納められています。
お正月から初釜(茶事)が催される頃床の間を彩るのが、「結び柳」と呼ばれる寿ぎのあしらい。青竹の花器に芽吹いた柳を挿し、枝の中心に輪をこしらえたもので、結びの「むす」は「産す」「生す」という言葉につうじ、ものが生じることを意味しています。

枝が描くしなやかな曲線、ほのかに漂う新芽の香り、すがすがしい緑を目にするたびに、私は日本人に生まれたこと、日本文化のなかに生きていることを誇りに思います。
ただ、こうした先人から引き継がれてきた時節の催しや、それにまつわる儀式、所作、あつらえを、伝統とか文化という言葉だけで片づけようとすると、その本質を見失いかねません。というのも、伝統や儀式とは、その時代に求められた暮らしやすさが具体的になったひとつのスタイルで、必要とされるスタイルだけが淘汰されて残ってきたもの。それ自体にステイタスがあるわけでもありません。

国の内外を問わず、相手を思いやり、いたわりつつ推し量り、互いに存在価値を認めあうことこそ、伝統の核心であると思います。そうした関係を大切に思うがゆえに生まれたコミュニケーション手段が礼儀作法と捉えれば、それらは私たちにとって、必要不可欠なものになるのではないでしょうか。
京のお正月には「あいかわりませず」という挨拶があります。その環境のなかでコミュニケーション手段のバリエーションが増えるだけ、気持ちの伝え方にも豊かに広がると考えれば、行儀作法は様々な出会いを可能にする術となりえるでしょう。
時代のなかで構築され、洗練されてきた気持ちの伝え方は、自分の生活のリズムのなかで自然に活かされてこそ、その意味合いを発揮することは、謂わずもがなですが。





床の間に飾られているのは「結び柳」 日の出が描かれた掛け軸は森一法。置物は先代・永楽の作 。

お正月の卓を彩る吉兆の料理「八寸」。

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