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六百坪の敷地の中に、鮮魚商33軒、青果商55軒、すべての商店を数えると約190あまりの店が軒を争う石川県の近江町市場。享保六年(1721年)開設といいますから、実に280年以上もの間、この地は加賀の台所として人びとの暮らしを支え、今に続いてきたことになります。
迷路のように入り組む通りにひとたび足を踏み入れれば、ここが一日に1万5千人もの顧客を集める市場であることも、なるほど納得できます。
魚介、青果いずれも、とにかく鮮度がいい。そして品ぞろえの豊富なこと。都市圏の市場ではめったに目にすることのできない地元の食材が、あちらの棚、こちらの棚に所狭しと並んでいます。
さらにこの市場が他と一線を画しているのが、食材に対する目利きが多いということ。先人から受け継がれた食の知恵と知識が生きているのです。

 

ヤマカ水産社長の紙谷一成さんも、そんな目利きのお一人でした。三十歳を過ぎたばかりの紙谷さんは「まだまだ先輩から教えられることばかり」と謙遜しますが、地元の食材に対する自信とそれらを愛する彼の真摯な姿勢に私は共感しました。


ヤマカ水産株式会社
代表取締役社長。1971生まれ。

ヤマカ水産株式会社
石川県金沢市下近江町30番1
/076-232-1255


ズワイガニや甘エビは、北陸の海の幸として全国に知られるところですが、万寿貝やバイ貝、ガスエビ、水魚、ノドグロなど、加賀の幸と呼ぶに相応しい魚介は季節ごとにまだまだ沢山あります。
紙谷さんは、魚介類に限らず加賀独特の食材の良さを自らも学びながら、その存在を一人でも多くの人に知ってもらい、それらを美味しく食べる方法を伝えていくことが、地元の産業を守り活性化させる大切な要と考えています。
食材と人を「販売」という方法でつなぐ紙谷さんと、「料理」という方法でつなぐ私と立場はそれぞれですが、その根本はまったく同じものなのです。

石川県金沢市近江町市場を彩る冬の魚介類の数々。

右上)万寿貝はお吸い物や酒蒸しで。
左上)輸入物が増えている現在、日本海から揚がるズワイガニは貴重品。
中右) 水揚げされたばかりの甘エビはきれいな紅色を帯びている。
中央) 水魚(加賀ではゲンゲンボウと呼ばれる)もお吸い物にすると絶品。
ガスエビ(中左)、ノドグロ(右下)、バイ貝(左下)いずれも、地元では日頃から食卓に並ぶ。近江町市場では、威勢のいい売り声とともに、これらの食材を美味しくいただく方法も教えてもらえる食の学校でもあるのだ。

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