加賀の台所、金沢市の近江町市場には、前回ご紹介した紙谷一成さんたちが携わる魚介卸売店と数を競うように、加賀野菜を得意とする青果店が軒を連ねています。
八百屋さんには、さつまいも、ニ塚からしな、金時草、ヘタ紫なす、金沢一本ねぎ、金沢せり、金沢春菊、くわい、打木赤波甘栗かぼちゃ、源助だいこん、加賀太きゅうり、加賀つるまめ、加賀れんこん、たけのこ、赤ずいき等旬の野菜が並び、季節の移ろいに気づかせてくれます。
特にこれら十五種は「加賀野菜」と呼ばれ、加賀で長い間栽培されてきたものですが、なかには金沢せりやくわいのように、生産が減少しているものもあります。
近江町界隈で加賀野菜博士と称される小畑商店のご主人・小畑文明さんは、伝統ある地元の食材が消えてゆくことを危惧し、「加賀野菜保存懇話会」を立ち上げたお一人です。
「野菜は風土が育てた地元の味。甘味、苦味、辛味、うま味といった食材の味わいは、それ自体が地元の歴史や文化を映し出しているものなんだ。だからうちでは、行政から何と言われようと、五郎島産さつまいも、花園産の金時草というように、必ず産地を明示するんだな」
そう笑顔で語る小畑さんですが、画一化が進む一方の食文化の現状は行政だけが責められる問題ではないとも続けます。
まず生産者が自信を取り戻さなくてはならない。食という人の命を司る仕事をしている生産者は、その意義と使命を改めて捉え直すべきという小畑さんの意見に私も深く共感します。
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小畑文明(おばた・ふみあき)
小畑商店代表取締役。
加賀野菜保存懇話会事務局長。
1950生まれ。
書籍「いいね金沢加賀野菜」
「ほっと石川加賀野菜」等を自費出版。
株式会社小畑商店
石川県金沢市下近江町市場内
/076-231-2532 |
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そして消費者も、学ぶことを怠ってはなりません。生産者を取り巻くさまざまな事象、その苦労を知ること、それらを口にできることへの感謝の心、食材を美味しくいただくための知識と知恵を得ること等々。小畑さんは、生産者と消費者の仲立ちとして、精一杯その仲介役を果たしたいともおっしゃっていました。
生産者、卸販売業者、消費者それぞれのバランスが整ってようやく、次世代につながる理想的な食材、流通、料理、そして人が育っていくことを金沢の市場で再認識いたしました。
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近江町市場に並ぶ「加賀野菜」。 写真右)源助だいこん、左)金時草、中右)せり、中央)くわい、中左)ニ塚からしな、下右)加賀れんこん、下中央)加賀太きゅうり、下左)五郎島金時(さつまいも)。
近江町市場の目利きたちに尋ねれば、旬の加賀野菜をもっとも美味しくいただく方法を伝授してもらえる。こうした食に対する古人の知恵を今に伝えていくことも、小畑さんたちをはじめとする卸売販売業者の大切な仕事、使命でもある。 |
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