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「赤と黒」------スタンダールの小説ではありません。今回ここでお話したいのは、 京都産の焼物「樂」についてです。
樂焼は、初代長次郎が千利休の趣向を受けた始めた手捏ねによる陶器で、広く知られているのが赤樂とく黒樂。ほかに白樂や素焼きの品もあり、茶の湯の世界では「一 樂、二萩、三唐津」といわれるほど評価の高い焼物です。
奥行きのある色み、シンプルな形、しっくりと肌に馴染む温かな質感---樂焼の器を 実際に使ってみると、それが眺めて愉しむ飾り物ではなく、生活のなかで使われるために作られたものであることがよくわかります。
当初、樂焼は「今焼き」「聚樂焼」と呼ばれていました。今様(いまよう)---つまり、その時代を先駆ける当世風の焼物だったわけです。樂焼の”樂”の字は、豊臣秀 吉が京都に営んだ豪華壮大な邸宅「聚樂第(じゅらくだい)」にちなんだもので、おそらく秀吉や利休たちは、その豪勢な建物の中で、今様の焼き物を前に侘茶を嗜んで いたのではないでしょうか。
桃山時代の茶人たちは、この一碗の茶を介した所作のなかに、工芸、書画、建築、造 園など、様々な分野の美意識を統合してきました。それはすなわち、生きることとは 何かを考える一つの術だったのではないかと私は思っています。 そうした背景をもっているからこそ、樂焼の器には力強さがある。そして料理を美しく引き立てる包容力があります。

樂家十代・旦入作の樂に盛られた八寸。旬真っ盛りの河豚のしらこと焼き松葉蟹に温 かなあんかけをかけて食す。

写真でご覧いただいてる料理、河豚のしらこと焼き松葉蟹のあんかけには、樂家十代 ・旦入(たんにゅう)の樂を合わせてみました。柔らかく深い色の器の中で、しらこ の白と蟹の赤が、美しく映えていると思いませんか。
優れた器とはこの樂焼のように、派手さはなくともそのものに存在感があり、一度料理やお茶と組み合うと、また別の表情を作りだす、実に不思議な力をもっているものなのです。
美味しくお茶を飲み、愉しくものを食べるための器を考えることが、どう生きるかを 考えることにも繋がるとしたら、これほど素晴らしいことはありません。

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