左) そして口の中を中和させるときです。そのために徳岡氏はやわらかい自家製の豆腐を出す。続いて新鮮な蟹、そのあとに、本物の料理がくる。八寸である。「私たちの懐石料理のコンセプトは茶道の精神からきています。そのため、それぞれの季節のものや、海や山の幸で旬なものを使います。」と徳岡氏は説明する。すだちの皮、イチョウの葉、小鉢などにエビやいくら、焼きもの、海藻類、さけ、牛タン、魚の肝臓などが盛られ、それらは漆器の盆の上にもみじや松葉などとともに絵のようにだされる。食べ物や花や器は季節によって変わる。「和食の美しさは色のコントラストです。だから、私たちは昔から目でも食べるといいます。」徳岡氏はそれぞれの料理に対して、添加材料、器、盛り付けなどの最高の組み合わせを求め、メニューの一品一品を味覚的にも美学的にも重なり合わせて調整していく。
右) 焼き物では、焼き魚、しいたけ、松葉にさされた銀杏が、美しく包まれてでてくる。客がテーブルの上で紐をほどくのである。昔、天皇はそのような包まれた餅を臣民に贈っていた、とシェフは説明した。徳岡氏の祖父である湯木貞一氏は、果物と野菜を一緒に使った日本で最初の料理人というだけでなく、950以上ものオブジェクトがある湯木美術館を設立した。彼はとても貴重な磁器や陶器や漆器を集めた。貴重なオブジェクトの中には、30の染付の磁器の深皿や皿、湯のみ、鉢など日本の有名な窯元からきたものや、古いバカラのグラスや魯山人の陶器のコレクションもある。徳岡氏は、この数々の器をいつでも使えることがなによりの誇りである。 |