吉兆の創業者である湯木貞一は、茶会で懐石と出合い、料理を一生の仕事と定めた人でした。そんな祖父がお茶時のなかでもっとも大事にしていたのが、白ご飯の炊き方とその出し方です。
食の基本と最高の料理は家庭にあるということを信条にしていた祖父は、お米こそ日本人にとって、日本料理にとって、一番大切な要であると捉えていたのでしょう。白ご飯に並々ならぬ心血を注ぐ祖父の仕事を傍らで手伝いながら、私は茶の湯の在り方やしつらえの大切さ、日本料理の真髄を学びました。
実際、お茶事で出される白ご飯は、筆舌に尽くしがたいほど美味しいのです。湯だちといいまして、生米にいきなりお湯を注いでぐつぐつ煮るのがお茶事の白ご飯。お米の粒に心持ち芯が残り、表面に水分が回ってつやつやと輝くアルデンテに炊き上がります。それをしゃもじで掬ってお碗に移すと、すっと落ちる。
切り飯というのは、本来こうしたご飯のことをいうのですが、このアルデンテはその美味しさが長続きしません。だからこそ、炊き上がりのもっとも美味しい間に、絶妙なタイミングで招客にお出しすることが、お茶事の大事とされていたわけですね。
吉兆では、この白ご飯を特注した専用の金釜で炊いています。金釜や土鍋でご飯を炊くためには、火加減や水加減に少々経験が必要ですが、コツさえつかめれば一般のご家庭でもアルデンテのご飯をつくることができるはず。
そこで今回は本邦初公開、吉兆の白ご飯の炊き方をご紹介しましょう。
低温でじっくり時間をかけて精米したお米は、密封して涼しいところに保存しておきます。お米研ぎは次の手順で。まず多めの水をはった桶を用意しておきます。別の桶に米を入れ、溜め置きしておいた水を入れてすぐに水を捨てる。水を切ったお米を軽く混ぜるようにしながら研く----という作業を5回ほど繰り返します。
水切りしたお米に濡れ布巾をかけ、炊き上がりの二時間前に水盛りして炊き上げます。お米の状態や火の強さによっても違ってきますが、鍋が吹き始めてから11〜12分くらいで出来上がります。
白ご飯は何といっても炊き上がりが一番美味しい。この美味しい時間に合わせて、付け合せやおみそ汁をつくるのが料理というものです。美味しいものを食べるためには、やはり手間と努力が必要で、食の基準もそこにあります。
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真鍮の金釜で炊き上げられた吉兆の白ご飯は、掬ったしゃもじからするりと碗に落ちる。お茶事に出される切り飯とは、本来こうしたものであった。
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