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1902年、オーギュスト・エスコフィというフランス人が著した『ル・ギッド・キュリネール(料理の手引き)』は、当時の料理人たちのバイブルとして重宝されただけでなく、今日のフランス料理の基礎、体系を築いた本でもありました。
茶事の世界でも、茶人にとっての座右の書というものがありまして、たとえば道具に関するものでしたら、松平不昧候の『古今名物類聚』、高橋箒庵が編纂した『大正名器鑑』などがそれにあたります。
『大正名器鑑』は、一級の茶道具名器、400点余が原寸大の写真と関連資料で紹介されている本で、今なお茶器の戸籍簿としての役割を果たしているといわれています。
しかし、こうした一大図録に収録されていない名器というのもあるわけでして、その最たる例が北大路魯山人の作品です。
京都生まれの魯山人は、初め書や篆刻で名を成しましたが、後に料理や食器の分野でも個性的な世界をつくりあげていきます。
吉兆にもしばしば足を運んでくださいました。お店にある魯山人の器の多くは、来店の際に本人が持参されたものです。今度行くからと言って、木箱一杯の器を送ってきたこともあったと、祖父の湯木貞一は懐かしそうに語っていました。
その作品にしても、魯山人ほど、毀誉褒貶相半ばする人物もいないと思いますが、私は彼が常々語っていた「料理とは理(ことわり)を料(はか)ることであり、ものの道理に合わなくてはいけない」という考え方には大いに賛同するところです。そして「料理の着物であるべき器は、使ってこそ価値がある」ということに関しても。
実際、魯山人の器は、料理と組み合わせることによって俄然その魅力を増してくるといいますが、さまざまな表情をもたげてきます。一見、奇妙奇天烈な形をしていても器なんですね。つまり、料理を盛ったときの器としての機能はしっかりと備えているのです。
器は人と料理を結ぶ大切な媒体です。私たちが生きていくうえで欠かせない大切なものを見つめ直すきっかけを与えてくれる。皆さんも、今一度、料理と器の関係について目を向けてみてはいかがでしょうか。

手前に桜、内側には紅葉の絵をあしらった茶碗(一番奥)、織部焼による角皿と丸皿(中央と手前の写真)。いずれも北大路魯山人作。

湯木美術館 日本料理店「吉兆」の創業者である湯木貞一氏が創建した美術館「湯木美術館」では、氏が収集した奈良時代から江戸時代まで、重要文化財をはじめとする茶の湯の道具コレクションをご覧になれます。お近くにいらした際には、ぜひ足をお運びください。

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