青年の頃、僕はミュージシャンになりたかったんです。でも僕に跡取りを期待していた家族は大反対。自分の意思を貫こうともがいた時もありましたが、どうして料理人じゃダメなのか?という答えが見つからず、いっそのこと世界一の料理人を目指そうと決心しました。そのため、僕にとって最も尊敬する料理人であった祖父に付いて修行したんです。でもある時、「祖父と同じ事をしていても仕方がない」と気付いたんです。僕じゃないとできないことを探そうと。それから自分自身と素直に向き合え、何事にも柔軟にチャレンジできるようになったと思います。
生まれて間もない子供は、自分の感情を表現するために言葉を覚え、大好きな両親のもとへ行くために歩くことを覚えますよね。おもうようにいかなくても決してあきらめない。大人になっても同じで、「失敗するのが怖い」とか「自信がない」などの理由をつけてあきらめず、自分の決めた道は命をかける覚悟で追求してほしいと思います。
祖父である湯木貞一が創業した料亭を受け継いでから、昔から続く風習や調理法の見直しを図りました。それまで不明瞭だった料金設定を明確に表示したり、食材から調味料に至るまでの産地や製法をゼロから検討したんです。なかでも苦労したのは無農薬野菜。数々の農家へ実際に足を運び、完全な有機農法を行っている農家を探し当てました。農法についての理解を深めるため、スタッフ全員で農作業を手伝いに行ったこともありますよ。実際のところ完全な無農薬にするのは大変なことなのですが、やはり人間の存在にとって「食」は必要不可欠なものですから、食に携わる限り「安全な美味しさ」を求めていきたい。さらには次世代にも正しい食の意識を伝えていきたいと願い、幼稚園や小学校などで勉強会も行っています。
茶道、能楽、造園、建築物…とさまざまな伝統分野が絡みあって成り立つ京都。そこには人間が生きるために必要な知恵が隠されていると思うんです。少しずつ積み重ねられてきた伝統が身近にあることでそれらを学べる機会も多く、食を探求するには最適の土地だと思います。