長澤は「吉兆さんにはいつか『参った』って言わせたる」と誓う。
農薬科学肥料を使わずにうまい野菜を作る。それは「むちゃくちゃ難しい」と2人は口をそろえる。有機無農薬で徹底的に野菜の味、美しさを追求している農家自体がごくわずかだという。
その難関の第一段階は安定した収穫を得ること。「葉っぱを食べる害虫と、虫を食べる益虫、そのバランスが大事」と長澤は言う。畑では害虫が先に湧き、益虫は後から現れる。そして害虫は農薬に強く、益虫は弱い。一度農薬を使うと益虫が死滅、害虫が跋扈し始め、それを防ぐには農薬を使い続けるしかない。
「農薬を抜き、害虫の数に合った益虫が育つ環境を作る。5年ほどはかかるかな」と言う。
第二段階がおいしく、美しい野菜を作る作業。要となるのは肥料だ。「野菜の味は窒素で決まる。」とも言う。「鶏糞、牛糞、魚かす、油かす等々。何をどれくらい使うか。年に1回ずつの実験ですわ」。納得出来る結果がでるのに3〜5年、今なお納得できないものもある。「一生でせいぜい50回しか出来ん実験。去年より今年、来年と工夫せんと。これでええと思ったらすべてが止まる」。語る長澤の表情は厳しい。
今年、長澤が収穫した野菜のうち京都吉兆に納めたのは0.2〜0.5%。「もっと売ってくれ、十分おいしいから言うても譲ってくれん」と苦笑いする徳岡に、「ええもんくれって言うたやろ。最高にええもんはこんだけや」。長澤はどこまでも頑固だ。