「長澤さんの野菜は高く売れるようになった。今じゃ彼にあこがれる人がいっぱいいる」と徳岡。「1次産業をあこがれの職業にする。それが日本の食を救う鍵」。そして「そのために、いろんな人の意識を変えないと」とも。
まずは生産者の意識。「もっと表に出て、その思い入れ、技術をもっと僕らに教えてほしい」。人前に立つのが嫌いだった長澤は、徳岡に引っ張り出され続けて「農家のヒーロー」になった。
次は消費者の意識。「月に1回でも少し高い野菜を食べてみる。生産者に思いを馳せて食べることが、日本の食を支えることになる」
そして三つ目が「ルール」。為政者側の意識と言ってもいい。有機農薬農業に取り組む人や、新規就農者への支援の充実を訴える。「無利子融資とか税制上の優遇措置とか。皆に長澤さんの10年の苦労を体験しろとは言えないから」。そう言って馴染みの政治家や経済人の繰り返し語りかける。「生産者の現状を伝えるのが僕の役目。料理屋は、生産者とそれ以外の人たちをつなぐパイプ役やからね」
「生産者なしに料理屋は成り立たない。それだけじゃない。生産者がいなくなり、食が崩壊したら、人は生きていけないんですよ。」そう話す時、徳岡の口調はいつになく熱くなる。