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きょうの味 「農家のベスト」と市場の要求」の隔たり、打開策は?

調理場を出て、さまざまな場で「話す」事を続ける徳岡邦夫(47)=京都吉兆嵐山本店総料理長。その姿は、話を聞く側の目にどう映ったか。京都学園大の健康講座で徳岡と出会った参加者の視点から紹介したい。福岡裕和(38)=亀岡市曽我部町=は、代々続く農家の出身。29歳まではサラリーマンで、ハードディスクなどに使われる「流体軸受けモーター」を開発するエンジニアだった。現在は主にワインに使う醸造用ブドウを栽培している。

「生産者が考えるベストと、市場の要求が合わない」。昨年5月の健康講座、徳岡との初対面の席で福岡はそう切り出した。この時、徳岡は「僕が話すより、会場の人と議論をしたい」と予定されていた自分の講演をやめ、参加者との意見交換会の形式に変えてしまった。戸惑う司会者が最初の発言者として指名したのが福岡だった。

「例えばホウレンソウは、市場では緑色が濃いものが売れる。でも色を濃くするために使う硝酸態窒素という化学肥料は、特に妊婦さんとかの体によくない。だから僕らは無農薬で肥料も抑えて作ります。できたものの品質には自身を持ってるんですが、色が淡いので二級品扱いなんです」。作業着姿の福岡は淡々と話す。「買う人に勉強してって言うのは失礼やけど、現状では売れるものに生産者側が合わさないと、農家の維持は難しい。それをどう打開するか、日々考えています」
徳岡は即座にこう返した。「会場の皆さん、硝酸態窒素って聞いたことあります?色の濃いホウレンソウは体に良くない可能性がある。そんな話を農家の方に聞く機会、今日みたいな場を作ることこそ打開策じゃないですか?」
一人で話すより皆で議論

「徳岡さんは持論を言うんじゃなくて、皆に発言させようとしはリますね。参加者に『もっと考えよう!』っていう姿勢。あれは新鮮でした」。昨春の議論を振り返って福岡は言う。「出席者相互の中から何かを得させようとする試み」今までにない面白さを感じたとも言う。一方で、若干の消化不良もあった。ホウレンソウを例に挙げた福岡の問題提起に対して、徳岡のコメントは1回だけ。議論もそれ以上深まらず、別のテーマに話題は移った。「テーマの大きさに対して議論の時間が少なくて、発言者が一通り意見を言うだけで終わってしまった。発言が他の発言を触発して討論が進む面白さが生まれなかった。それは少し残念です」と言う。それでも福岡は今年2月、2回目の健康講座に足を運んだ。この回は、吉兆米と亀岡産米の「食べ比べ」が目玉。「吉兆米は確かにおいしかった。でもその後、自分は何でこの米を上質やと思ったんやろ?って疑問がわいてきたんです」。福岡は、自分が精魂込めて取り組んでいるブドウ造りと重ねながら、コメ作りを考えて始めていた。



「米の食べ比べ」で出されたごはん。どちらも美しいつやを放つ
 
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