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冷え込む夜の空気と対照的に、部屋の中は季節を先取りした桜色の調度で彩られていた。2月16日、下京区のリーガロイヤルホテル京都。ワイン中、食通として知られる俳優辰巳琢郎が主宰する「嬉食満面晩餐会」が開かれた。年に2、3回、内外の著名な料理人をボランティアで招き、辰巳が選ぶワインと組み合わせた料理を提供する。この火は徳岡邦夫(47)=京都吉兆嵐山本店総料理長=が、初めて参加した。告知チラシには「待ちに待った登場」との言葉。料金は1人6万3000円、40席が発売と同時に完売した。
徳岡のメニューは当然、日本料理。しかし大胆な洋風アレンジを加えた。使う食器もホテル備え付けの洋皿だ。例えば「焼き白子 ふぐ焼きせせりコンソメゼリー ルッコラ トリュフソース」「はまぐりのリゾット」「あずき、カカオパウダー生クリーム栗」と言った具合。客の評判は最高と言っていいだろう。元ソニー会長、出井伸之は「クリエーティビティーにあふれた料理だった。嵐山もすばらしいけど、徳岡さんは自分の店でできないものを、今回楽しんで作ったんじゃないかな」と笑顔を見せた。 |
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徳岡は最近、常識的な日本料理の枠を超えた料理を作ることが多くなった。つまり海外を強く意識し、取り入れた新しい日本料理だ。「嬉食満面」はワインとの組み合わせが前提だったが、実際に海外で腕をふるうケースも激増しているヨーロッパの食の祭典に呼ばれることもあれば、テレビの企画で外国に飛び、現地の食材で料理を作ることもある。海外の超VIPの依頼で、海を越えた「ケータリング」をしたのも一度や二度ではない
「日本料理が世界基準で見られる、判断されるようになってきたからだと思いますよ」。徳岡は変化の背景をそう見ている。昨年賛否両論の話題を呼んだ「ミシュラン東京版」も、掲載すに関する吉兆グループ全体の方針とは別として、徳岡個人は存在価値を認めている。「東京が世界有数の美食の都って言われたでしょ。京都でもやったらもっと上かも知れない。ミシュランによって私たち日本料理の料理人が世界から見られている、世界を相手に仕事をする覚悟を求められる、ってことに気付くなら、あの本に意味はある、と思います」
世界的に日本料理と日本料理人が注目されている。そんな中、徳岡は自分だけでなく、京都吉兆そのものも世界へ進出させるつもりがあるのか?
同じ問いかけにかつて徳岡は「パリとかね、ニューヨークでもいいかな?」と冗談めかして言ったことがある。徳岡と京都吉兆の未来図を描くため、改めて現在の心中を聞いてみた。
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=敬称略、つづく
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