私は海外からの招きで、料理イベントによく参加します。その数は、世界的な日本料理ブームなどの影響もあり、年々増える傾向になってきました。みなさん日本料理に非常に関心が高く、お客さまはもちろん、料理人たちが日本料理を学びたいという積極的な姿勢の方とたくさん出会います。
われわれ日本人が海外の方にきちんと日本料理を伝えていくために、こうした機会を活用することはとても大切だと思います。特に英語圏でのイベントの訴求力は非常に強く、瞬時に世界中に情報が伝わっていくスピードには驚くばかりです。
「世界料理サミット2009」は、初めて日本発信の「料理学会」になるのではないでしょうか。最先端の調理技術、クリエートの根幹、食材、調理器具などが一堂に集まります。来場した方々は、今後、仕事をする上で必ず何らかの役に立つと思います。
これまでの日本の料理は、伝統を継承すること、そして料理人の経験値をもとに作られることが多かったと思います。しかし、これからの料理人はそれだけに縛られるのではなく、もっと理論的に料理を構築していく力が必要だと感じます。
例えば、昆布とかつおはグルタミン酸とイノシン酸が合わさって、「うまみ」が生まれるのですが、これをトマトのグルタミン酸と肉のイノシン酸に置き換えることができますし、肉のイノシン酸と昆布のグルタミン酸が合わさっても「うまみ」が生まれるのです。
その際、食材の形状は関係ありません。「うまみ」を感じる舌の特性を理解すれば、「うまいと感じる料理」を作ることができるのです。こうした「理論」を知っていると、料理の可能性はますます広がっていきます。
今回、私はこのイベントで「うま味、香り、食感」をテーマにします。おいしさというのは、舌だけで感じているわけではなく、口の中や鼻にあるセンサーを通じて、主に脳の「大脳皮質」という部分で感じています。センサーである舌には、いろいろな味を化学的に感知する受容体(レセプター)があり、甘み、酸味、塩味、苦み、うま味という五つの味が、レセプターで感知されます。
そのレセプターの種類は、うま味を感知するレセプターは1種類、甘みに反応するレセプターも1種類、苦味に反応するレセプターは、約50種類。舌は、さほど多種多様な味を区別できるようには出来ていません。それに対して、鼻の中の細胞にある匂いのレセプターは、現時点で約380種あると言われています。さらに口の中でも、舌触りや食感(テクスチャー)と呼ばれるものは、物理的な刺激で、味覚ではなく触覚によるおいしさです。指先の感覚と同様に非常に繊細な違いを区別することができます。もちろん、視覚や聴覚もおいしさを引き起こします。おいしさは生物としての人間が持つ「五感」すべてを使って、感じるものだと言えます。人間の体はそのように出来ています。
今回は、その中でもより繊細な「分解能」を持っていると思われる感覚に焦点を当てて、料理を考えてみました。今後より進化した料理をつくっていくには、理論と物理的な側面から物事を見る力が必要です。この「料理学会」が、そのことに気づくきっかけになっていくと思います。
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