日本の風景画の一場面のような所に吉兆はある。ここは150万人の人口をようし、多数の名高い寺院があることで有名な古都京都の郊外である。
吉兆は、日本の美食家にとって貴重な聖地なのである。そして、芸術作品としての全体像から、きめ細やかにしつらえらた最終の飾りつけまで徳岡邦夫氏とその妻律子婦人が懐石としてもてなしている。その上、彼らは演出や料理の数々の中で伝統的な技法のバランスや軽やかな五感の喜びを感じさせることに見事に成功している。
それらの魅力は前菜の時から堪能できる漆塗りの盆の上には魔法をかけられたように美しく盛り込みがされており、それぞれの小皿の中には驚くようなものが入れられている。そうやって献立は、続けられる。徳岡氏は日本の先人たちが当然そうしてきたように自然を大切にして料理を作る。しかも小さいが効果的な趣向ということを誰もが知っていると彼は思っている。
料理や材料を新しいものとして体験させてくれる。秋の松茸料理は特に有名である。我々は吉兆で酔いしれるような香りの焼き松茸をいただいた。これ程のものはどこへ行ってもないだろう…
徳岡氏は大きく”よく育った”松茸をとり、小さな焼き網の上にひとつひとつ置いていった。まぐろの刺身は全く高貴といっていい味である。その脂気をじゃがいものピュレとからしで取り去ることより一層気高い味になるのである。
多かれ少なかれしょう油は似たような味だと皆思っているが、吉兆ではさらにもっと研究されている。右の料理ではプラムの甘さの上にバルサミコ酢のやわらかな甘味がのり、そして幾種かの酸味が酢やかんきつ類で加えられあわびの肝の苦味へと微妙に続いていく。邦夫料理長は12ヶ月間次から次へと入念に献立をたてていきます。
それは、彼が優れた味覚と美的センスをもつことを示している。器の選択についても彼は自分で判断をくだし、父の徳岡氏は決して口を出さない。邦夫料理長は年代物の高価で美しい様々な器や道具を自由に使うことができる。それらの芸術的な器や道具は彼の祖父が料理に使うために買い集められたものであり、彼はその貴重な収集品のために大阪で自ら”湯木美術館”を設立した。