=第一回=
「人に驚きと感動を与える、なにか」に情熱を傾け、夢と希望にあふれた生活を実現している人々を、カバヤ食品株式会社社長・野津喬がインタビュー。
第一回の舞台は京都。老舗料亭若主人・徳岡邦夫さんの革新の挑戦に迫ります。
徳岡氏(以下、T) 僕、岡山にいたことがあるんですよ。高校時代の一時期で、勉強が大変だった記憶しかありませんが(笑)。
野津(以下、N) そうですか。京都のご主人が岡山とは不思議なご縁ですね。私はいま、仕事の都合上、岡山本社と東京を往復する生活で、忙しく動き回っておるんです。こういう庭を見せて頂くと、ほっと肩の力が抜けますね。
T いまの日本人のほとんどが、「前」しか見ていない時代でしょう。だからここにおいで頂いた方には、「いい時間」を過ごしたと感じて欲しいんです。
N ゆっくりして頂く・・・。
T そうです。実は4年前、食事中に涙を流されたお客様がいらしたんです。おそらく仕事も何もかも、走って走って人生を駆け抜けてこられたのだと思いますが、「家族とこんなにゆったりとした時間が持てて、こんなに嬉しいことはない」と。
N 食事で何かを思い出されたんでしょうか・・・。
T 僕はその時に、空間も時間も、ごちそうのひとつだと改めて実感したんです。だから特に接客を担当する女性には「ゆっくり話そう、今だけの時の流れが作れるように、優しく話そう」と伝えてるんです。
N 確かにそう接せられると、気持ちがおおらかになる気がします。それに今まで無形だと思っていたサービスにも「カタチ」があるとは面白い。
T 今や料理がおいしいのは当然です。その上にお客様に感動を与えるサービスを心がけなあきません(笑)。
N 高級料亭というと畏まったり、使いなれてらっしゃる方は飲むのが中心・・・と思っていましたが、今の徳岡さんのお話だと料亭も変わってきている・・・。ゆっくり心を解いてより人間らしくなる場、という感じがしますね。
T ご宴会などいろいろありますから、全てがこうとは限りませんが「今年は何人泣いてもらおう」という目標を立てたり(笑)。でも本来、食事やお菓子ってそういうもんだと思うんですよ。
N お菓子の話題でね、名前を言えば「それ知ってる」「私も」など、場が盛り上がって急に親しくなったりしますね。私なんて「巨人、大鵬玉子、焼き」の時代ですが、それでも「味の記憶の共有」は、これからの人にも持ってもらえればと考えています。
T 味の共有が時間をも共有する。カバヤさんのお菓子や吉兆の料理が、そうなれば一番です。ちなみに今日の献立で、ひじきが出ましたでしょ。こういう店ではあまり出ない献立ですし、それに普通には仕立ててない。
N そうでした。懐かしいのに田舎のひじきではない、新鮮な印象。
T きちんとした中にもほっと息を抜いて頂く一品としてお出ししているんですが、僕、味というのは、ノスタルジーだけではいけないと考えているんですね。だからひじきもルーコラとオリーブオイルで和えてある。常に時代に即していないと・・・お菓子もそうでしょう。
N 半歩先を・・・と心がけております(笑)。