橘
「床の掛物は又兵衛」
徳岡孝
「又兵衛の断簡で、在原行平。金森宗和の所持、表具も宗和です」 |
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橘 高座しまして、皆さん、えらいすみません。今日は若主人夫妻がもてなしてくださるというので、楽しみに参りました。お父上御自らお詰に坐っていただいて恐縮です。
一同 和尚様、よろしくお願いいたします。
橘 床の掛物は又兵衛ですか。
徳岡孝 そうです。岩佐又兵衛筆の断簡で、在原行平。謡曲「松風」では、須磨の浦の月影のもとで汐を汲む松風、村雨が嘆きますよね、行乎を恋慕して。ちょっと軸が高いかなとも思いますけど、すすきがすーっと立ってるから、まあ許されるかな、と。
橘 岩佐又兵衛ね、土佐派やねえ。古いものや。人物の顔がちやんと描いてありますな。しかし、又兵衛にしたら、これはずいぶん慎んでますなあ。
鈴木 活躍したのが一六○○年頃から五十年間の人ですから、江戸初期ですね。表具がまた、絵を一段と引き立てていて、すばらしい。
徳岡孝 金森宗和の所持、表具も宗和です。ふつう、一文字と風帯は同し裂ですけど、これは色違いの金紗を使っています。
橘 へえー、そうやろなあ。裂が違うなあと思うてましたんや。
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鈴木
「表具がまた、絵を一段と引き立てていて、すばらしい」
徳岡孝
「ふつう、一文字と風帯は同じ裂ですけど、これは色違いの金紗」
掛物 |
床荘り
岩佐又兵衛筆 在原行平
金森宗和所持 同表具 |
花 |
薄 菊 |
花入 |
塗金銅尊式 |
薄板 |
黒丸香台 |
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鈴木 「表具がまた、絵を一段と引き立てていて、すばらしい」
徳岡孝 「ふつう、一文字と風帯は同じ裂ですけど、これは色違いの金紗」
鈴木 お花は薄と菊、瓶掛が蔦の細道の絵で、王朝の雰囲気が漂っています。この瓶掛は古そうですねえ。木目を洗い出して、持ち手のところが雲の象嵌になっている。
徳岡孝 おもしろいですねえ。ちようどいいのがありましたな。
榊美 お花がすっきりと、よろしいこと。
榊せ 花入は……。新しいものですか。
鈴木 こちらでは初めて拝見しますけど、形は尊式ですね。
徳岡孝 秦蔵六の尊式。この軸にふさわしいものをと、悩みましてね。初使いでございます。
榊美 まあ、それは有難いことで……。茶籠は唐物でしょうか。
鈴木 和組のようですね。お盆は淡々斎の花押がありました。お好みのようです。
榊せ 建水が小振りで可愛らしい。
鈴木 砂張で、煎茶器からの転用なのでしょう。茶籠の中に楽に納まる寸法です。 |