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鈴木
「向付が菊花で季節の余韻を感じます」
橘
へえー、蓋に合わせて燗鍋をねえ。
榊
美
向付、おいしいですわ。
徳岡
孝
蟹を吹寄せにしていますな。
橘
やあ、お椀が熱つ熱つですな。
徳岡
邦
今の時期ですと松茸ですが、又かということになりそうなご連客のお顔ぶれですから、今日の献立は私どもの秋の定番の一つにいたしました。お熱いうちに……。
橘
はい、いただきます。
鈴木
蓋の金蒔絵が豪華ですよねえ。
榊
美
絢燗たるものですねえ。お椀もおいしさがたっぷりで……。
榊
せ
ほんの少し焼き目をつけてあるだけで、風味が一段とよくなって。
若女将
和尚様、二献をどうぞ。
橘
これはこれは。
若女将
鈴木
先生、盃をお空けください。
鈴木
これは、どうも。
若女将
榊様、お注ぎいたします。
榊
美
まあ、お料理がおいしくて、私、無調法ですのに、ついつい御酒をいただいてしまいますわ。
若女将
ありがとうございます。お嬢様、一献をどうぞ。
榊
せ
私も無調法ですから、少しだけ頂戴いたします。
若女将
お詰様、盃を……。
徳岡
邦
「今日の献立は私どもの
秋の定番の一つにいたしました」
鈴木
「お椀の蒔絵は虫だけと思いましたら、色漆で萩が描かれています。 遊び心が嬉しい器です」
徳岡
邦
では、注いでもらいましょうか。
橘
はあー、焼物の器は備前ですな。よろしいなあ、大きさも。うまそうに焼けているわ、このぐじは。
鈴木
淡白そうにみえて結構脂がのっていますよ、甘鯛は。ああ、関西ではぐじでしたね。
榊
せ
家では、焼くのはとても難しい。
徳岡
孝
身が柔らかくて、骨は硬いですから、魚焼く前に手を焼くでしょうなあ、ご家庭では。
一同
ハハハ……。
橘
これはまた逸品ですな。赤絵の鉢は明ですか。
徳岡
孝
そうです。この鉢、重宝しますのや。たっぷりしていますやろ。
榊
美
盛り付けをよく見ておかないと。私どもが盛り付けますと、こうはすっきりといかなくて……。品数が多くなるほど難しい。
榊
せ
ええ。うちでお茶事の時は、いつも苦心しております。こんな風になかなか盛れません。
鈴木
この酒盗和えはお酒がすすみますねえ。和尚様、お注ぎしましょう。
橘
器は何ですか?
徳岡
孝
ちょっとおもしろいでしょう、下のほうに穴があって。長入の黄瀬戸向です。
一同
ほおー。
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