徳岡さんは、常に生産者への尊敬の気持ちを忘れません。これも祖父の湯木さんから引き継がれたもののひとつです。
「農業にしても漁業にしても、生産者は実際に食べ物を供給してくださる、人の生命力と直結した職業ですよね。なのに、あまり世間に認知されていないんです。
そこを改善していきたい。吉兆では出汁や塩も数種類使って味つけをします。そのために全国各地を飛び回って、例えば昆布なら北海道の利尻の生産現場から、本当にいい素材を発掘したこともあります。最高の素材を調達できるのも生産者の方との信頼関係があればこそなんです」
徳岡さんの料理への情熱と礼節の尽くし方は想像以上でした。
頂点を知る徳岡さんにとって、極上のおもてなしとはどんな考え方によるものなのでしょうか? 「相手を思いやることではないでしょうか。どれだけ気持ちを汲み取ることができるか。その気持ちを形にすること。これが吉兆のおもてなしだと思っています。自分たちのもとへ最高の食材を届けてくださる生産者の方の気持ちや情熱も、料理に一緒に盛られています。すべてが吉兆のおもてなしの心なんです。人と人とのつながりを大切にし、人を愛し、人に楽しんでいただく。創業以来受け継がれているような気がします」
徳岡さんの人間味あふれる言葉には随所に温かみが感じられます。祖父の代から引き継いだ「吉兆」という大きな看板のプレッシャーを楽しみながら、三代目の徳岡さんは新しい時代の「吉兆」を作っていこうと日々精進しています。
「人々に求められる存在になりたい。この思いは昔も今も変わりません」
と、徳岡さんは言います。時を越えて、受け継がれる想い。だからこそ、「吉兆」のおもてなしはいつでも私たちを温かく包んでくれるのです。