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初秋の八寸は「花屏風」。野を彩る秋の風景。グジの幽庵焼、焼鱧冊、海老うま煮、牛舌山椒だき、栗、銀杏などが盛り込まれている。

霧がかかれば山水画をも思わせる表情を見せる桂川と嵐山。京都の代表的な景勝地に、堂々たる門構えで佇む。 夜は1人4万2000円から。2人ならば10万円にも届く。憧れの地とされるのも当然だが、一見お断りという敷居の高さはないし、明朗会計。開かれた憧れの地である。
時刻は18時。門前には、「吉兆」の文字を染めた法被を纏う男衆が立ち、お客を迎えてくれる。 高らかに響き渡る鳥の声、サワサワと涼しげな音を立てる桂川の流れ。門をくぐる前から耳に入っていたのに、一歩足を踏み入れると、特別な効果音のように聞こえるのが不思議。緑豊かに木々が茂る前庭を抜け、用意された座敷のある棟に導かれる。

向付「蟹吹寄」。ススキをあしらい、月見草や小菊を内外にわたって描いた器で月見の風景。器は、15代正全作、乾山写秋草透し向。


惜しげもなく使われる国宝級の器。若主人自ら全国を駆け回って探してくる、最高かつ本物の食材-----。当然、すべての料理に唸るものはあるし、器も見事。ただ、以外なことに、そんな中でも緊張を強いるような空気は、微塵も感じられない。むしろ、軽やかで穏やか。最高峰たるものの、出すぎない余裕とは、こういうことなのだ。

穏やかな空気のなか、時に大胆とも思われる演出で、驚かせつつ、愉しませてくれる。座敷を暗くして蛍を飛ばすこともあれば、台を出して、月見をするという話も聞く。今日もまた、新しい物語がここで紡がれている。

食後録 男性=雲の上にいるような数時間。「お大尽遊び」をも思わせる料理の演出。
女性=すべてに華があるのに品がいい。本当の"本物"に出合える、もてなし。

吉兆の創始者、湯木貞一氏の孫に当たる、若主人、徳岡邦夫氏が現在この店を守る。「吉兆」の文字を染めた法被、庭先に出られるように用意された下駄、静かに音を立てる蹲。些細なものにも魂が宿るように映る。
約600坪もの広大な敷地に、母屋、東屋、蔵などが点在。こぼれんばかりの緑が眩しい。
上段右より時計回りに、鯛昆布〆(赤楽 菊花皿 了入造)。炊合せ 蕪・法蓮草(朝鮮唐津)湯斗、ぐじ焼き(織部 手鉢旦入造)。
和食の愉しみは料理だけではなく、しつらいを含めた四季を味わうことにもある。

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