4月某日。GQ編集部において、今年の日本フード界代表するGQ MENをノミネートする審査会(?)が開かれた。真剣な協議の結果、現在の食のトレンドを代表する7名が決定。おの7名を見れば、おのずと今年のフード界のありようが見えてくる。
まず、ここ数年の大きな流れといえば「スローフード」や「ロハス」。言葉の乱用で、少々陳腐な響きを持つようになってしまったが、人間が21世紀を生き抜くための、とても大事なキーワードとなるはず。そのスローフードを地でいく店が山形にある。恵まれた自然と優れた生産者に支えられた食材王国・山形という原石に、磨きをかける奥田政行氏(004)。卓抜したセンスで食材を生かしていく彼が率いるイタリアン「アル・ケッチァーノ」は、昨年大ブレイク。全国から客が押し寄せている。「山形が食材の都であることを、一生かかって知らせようと思っていた」のに、たった半年で達成。時代が要求していたものに、ぴたり当てはまったのだろう。これからの食トレンドのヒントが奥田氏と、その店に隠れているといっても過言ではない。
日本料理へ視線を移そう。「敷居の高さ」を感じる料亭。その存在意義を見直し、「いま」に合った料亭の姿を打ち出している「京都吉兆 嵐山本店」主人の徳岡邦夫氏(005)。媒体への露出、企業とのコラボレーションによって、格式を保ちつつも店の敷居を低くした。昨年は世界の食の祭典「Madrid Fusion」への参加など、日本料理の真髄を世界へ発信している。建物、庭、しつらえ、料理、サービス。日本文化の枠を集めた料亭文化は、後世へ伝えるべきもの。時代に合わせつつも、日本の食文化の本質を守り続けるのが「吉兆」だ。
寿司界にも動きが出ている。最近の傾向として、若手職人が独立して活躍し始めているが、あまりにも早い独立を危惧する声もある。「鮨 青木」主人、青木勝利氏(002)。きちんと弟子たちに成長してもらうため、彼らの活躍の場として、自らが支店展開を考える。さらに、上下関係が厳しい厨房ではなく、”チーム青木”として、弟子たちに寿司職人のイロハを教え込む。その柔軟な姿勢は、寿司の世界の活性化に繋がるだろう。
同じく、チームとして店を成功させえた例が、「カーザ・ヴィニタリア」など計6軒を率いるイタリアンの原田慎次氏(006)。パートナーとの二人三脚で、料理とサービスのバランスが取れた店作りに成功。オープン以来、何年も”予約が取れない店”として君臨しているのも、このあたりに理由がある。これからの店は、料理だけが目立つのではなく、ハードとソフトの両面からくる「居心地のよさ」が、求められるのは確実だ。
イタリアンの快進撃は続く。直営店を少数精鋭化し、大企業とのコラボレーションによって、多店舗展開を図る「リストランテ カノビアーノ」の植竹隆正氏(003)。提携先の意図を上手に組み入れ、店の個性を打ち出していく。植竹シェフがデパートでの展開を考えていないのは、この点を重視しているからだろう。
パリ「ステラマリス」の1ツ星獲得は、日本フード界今年最大のビッグニュース。フランス料理の総本山・パリで、日本人シェフ吉野建氏(007)が星を獲得したことは、料理に関わる仕事をしている人たちに勇気と希望を与えた。ミシュラン・ガイドだけがレストランの水準を決める指針ではないが、今回、やはり1ツ星をとったニースの「ケーズ・パッション」と供に日本のレストランの水準の高さを世界に知らしめた。
国境を越えて活躍している料理人が多いなか、パリで成功し、東京にも店をオープンしたパティシエ、青木定治氏(001)の活躍にも目が離せない。いま、お菓子の世界は東京とパリの時差がないと言われている。ピエール・エルメを筆頭にヨーロッパの有名パティスリーが、ここ数年で日本に多数上陸。本物の味とはどういうものか、日本のスイーツラバーは充分に理解を深めてきたのである。そこに「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」が東京に進出。青木氏のお菓子を日本人が受け入れるのに、時間はかからなかった。彼が言う「世界一、財布の紐がかたいパリの人々」が相手より、東京の方が商業的成功が早いのだろう。近頃は、外国人3ツ星シェフも日本に続々上陸していることから、日本ジパング(儲かる国)と見なされているのか?青木氏に問うてみた。「もちろん、ジパングです」。これは、日本のフード界が成熟期を迎えていることに他ならない。それを証明するのに、この7名がキーパーソンであることが間違いない。