徳岡:最近はインターネットやテレビなどで、瞬時に情報が取り出せる時代です。すると情報だけが先走りして、それだけで満足してします。実体験をするような場が、どんどん少なくなっているような気がします。
茂山:そうですね。生のお芝居などは、まさしく存続の危機。わざわざ、劇場に行かなくてもDVDを見れば済んでしまいますから。場を共有して生まれる空気感。そんな一体感を感じてもらうのが醍醐味なのですが。
徳岡:情報はあふれているのに、本質的なことが伝わってないのかもしれませんね。
茂山:祖父の千作が「博物館に入るような人形になってはあかん」と言っていた言葉が思い出されます。だからこそ、曾祖父の代から、どんな小さな場所でも、お客様がいれば出向いて演じようとしたのですね。もちろん、それは古典的世界から見れば、とても異端な行動だったようですけど(笑)。
徳岡:それが「お豆腐狂言」と言われるようになった所以ですよね。実は『吉兆』にも昔、存続の危機がありまして。料亭の閉ざされたイメージを払拭しないと、風土とか歴史とか、先人が積み重ねてきたものを失うのではないかと、悩んだことがありました。突き詰めた結果、この場に来ていただいて、ありのまま直接触れてもらうことが一番なのではないかと。情報はすべてオープンに。ルールなども、そこで体験して覚えるようにしてね。伝統文化もそう。茶も香も狂言も…大げさにまつり上げるのではなく、近いところで体験するからでこそ「すごいことやなぁ」と、納得できるのだと思います。それがまた、次の世代へ繋ぐためのヒントになるはずで。