東京大学法学部卒業。1977年自治省入省。85年より3年間、国際観光復興協会サンフランシスコ事務所次長を務める。99年京都府総務部長を経て、2001年京都府副知事、02年4月より京都府知事を務める。現在2期目。何事もやる気だと思っている体育会系人間、とくにかく明るく、前向きに、「信頼」と「絆」による新たな京都の「創造」を進めている。。
1200年余の歴史を有する古都・京都。戦後61年後、日本が世界の経済をリードする立場になった今も、人々を惹きつけてやまない。これから京都のあるべき姿を府知事・山田啓二氏に語ってもらった。
「東京に行くたびに思うのです。ジャパニーズドリームを体現して華やかな生活を送っている人を見ても、それが本当に望むべき姿なのだろうかと。これからは、東京という一極集中のスタイルではなく、2つの焦点に支えられるオーバルな社会、その中心の1つに京都がなることが、必要なのではないでしょうか。なぜなら、スローライフ、スローフード、スローインダストリーがあり、人間らしく生きる道を内省的に考えさせられる世界が、京都にはあるからです」と説く。
京都には美しい山や、川があり、その豊かな自然がまず魅力の源泉になっているが、それらは、決して手つかずのものではない。長い歴史の中で人間と自然が上手に共生することによって、守られてきたものだ。つまり、人間も自然の一部であるというのが京都流の認識なのだ。それを今後に残していくことが、まず一つの使命だと言う。例えば山は木を間伐することによって初めて、健康に育つ。そうした古来の流れを受けて、京都では昨年からモデルフォレストという、カナダ発の森林保護の運動に府民が参加し、皆で山を守る努力を始めている。
また、祇園祭や五山の送り火など、古くからの文化、伝統を何百年と守り、受け継いでいることも、替えがたい価値を生んでいる。しかし、これらの祭りも、スポンサーがついているわけではなく、昔ながらに地元の人々によって脈々と運営されている。だから京都の行政は、先頭に立って彼らを牽引していくのではなく、あくまで住民の後押しをするというスタンスが相応とは、山田知事の持論だ。
また、スローライフが営まれる一方、常に革新的な技術を生み出してきたことが、さらなる京都の強みとなっている。実は、世界的にも知られる日本有数の企業がいくつも本社を置く、稀有なビジネスエリアでもあるのだ。意外な気もするが、これは決して歴史と矛盾する現象ではない。知事曰く「京セラのセラは、セラミックのセラ。京焼・清水焼など、焼き物の技術を進化させ、成功を得たのです。また、京都は印刷製版機器や電子機器産業も有名ですが、多くは京友禅などの伝統産業関連の技術から進化したもの。さらに、最先端を行くバイオ技術に関しては、伏見など日本酒の蔵元の、微生物の研究から生まれたものです。伝統と革新は常に表裏一体。古い技の中から新しい技術が生まれ、1200年の歴史を支えてきました。伝統を守りながらも、過去に依存するのではなく、絶えず新しい力を生み出していくことが、京都が魅力ある都市として生き続けるためには欠かせないのです」。今も京都に本社を構える会社は、東京ではワンオブゼムになりがちなところを、京都でなら、オンリーワンとして世界を相手にできる視点と心を持つことができるとの思いがある。「今は観光名所になっているが、明治期にあの南禅寺境内に琵琶湖疏水を通し、水力発電を行い、電車を走らせた」という話を例えとして山田知事はよく使う。かように、自然、伝統、そして革新との共生、融合した社会こそが、これからも京都に望まれる姿勢なのだ。 |