独自の茶懐石料理で一時代を築いた故湯木貞一氏が、昭和23年に開業した名店。名店であればあるほど評価も一定になりがちですが、今また、食通達に注目され、予約の取りにくい店になっています。料理長は湯木貞一氏の孫にあたらる徳岡邦夫さん。素材から調味料までとことんおいしいものにこだわり、時代に合う新しい料理を追い求めています。たとえば左ページの「雲丹の松前焼き」もその1ツ。実際に浜辺でうにを食べたときに得たアイディアを、吉兆流の美意識と技で料理に仕立てたもので、口の中でうにが次第に甘さを増す過程が楽しめる贅沢な一品です。しつらい、おもてなしなど不変なものに新しい方向性が加わる、老舗の底力が感じられます。
↑徳岡さん。修行中の20代の頃、祖父である創業者、湯木貞一氏のまかないあに、にゅう麺を作ったところ、ひと言「おいしい」と。そんな至福な思い出が料理への情熱の原点になっている。
←女将の律津子さん。「京都らしさをかんじていただけるようなおもてなしをすることを心がけています」。控えめな物腰、人をほっとさせる優しさがある