「大根をさ、これくらいの丸い大きさにして、それをえびしんで包んで」。京都吉兆嵐山本店(右京区)の調理場。総料理長の徳岡邦夫(46)が右手の親指と人さし指で小さな円を作りながら、大声を上げる。「えびしん」は「エビ真蒸」のこと。エビのすり身をだしで伸ばし、ふんわりと柔らかく練ったものだ。
「えびしんに短く切ったそうめんをたくさん刺して油で揚げる。低温で」。「大根は塊?」と谷亮裕(27)が尋ねる。徳岡が答える。「うん。揚がった後にふぅっと割って、大根は抜くんよ。いがぐりがはじけたように見えるやろ?そこに栗の渋煮を入れて。今、栗採ってきた、って感じで」
指示を終えた徳岡に尋ねた。今のも新しい料理?「いや、これは湯木貞一の料理ですよ。30年も前の」