87年春、徳岡邦夫(46)=京都吉兆嵐山本店総料理長=は、約3年間交際した理津子(43)と結婚した。徳岡は26歳。同時に東京から嵐山の店に転勤する。88年には長男一喜(18)、89年秋には次男尚之(17)が生まれた。
東京・日本橋のアパレル問屋で働いていた理津子は、飲食業とは無縁。23歳で期せずして、料理の世界に飛び込んだ。「本当に体力勝負の仕事。お休みもほとんどないですし、拘束時間も長いですから」。今は微笑みながらそう言うが、慣れない世界での苦労は想像に難しくない。事実、理津子は出産後数年間の生活を「あまり覚えていない」と言う。
「忙し過ぎてだと思います。バブルまっただ中でお店は毎日目の回るような状態。若女将として覚えることもたくさんあって、ものすごいスピードで時間が過ぎていきました」。生まれたばかりの息子たちと過ごす時間が削られた。息子たちは嵐山本店ではなく、近くのマンションに理津子の実母と住んでいた。「我が子のそばにいられなくて、すごく精神的につらい時でした。主人もしんどそうでした」と話す。