H:あれはイタリアで出会った食材ですか?
T:そうです。着いた日の翌朝、市場で初めて見つけて。アチラのシェフに尋ねると生で食べると言うので、厚めに切ってしばらく放っておいたら偶然おいしくなった。食べ物ってちょっと置いておくと水分が蒸発して味が濃くなる。香りが立つんです。出す直前に、塩とオリーブオイルを和えてやってみようって発想になって、厨房のシェフに食べてもらったら、もう大絶賛でしたよ。
H:3回目のご招待が来たら、チャレンジしますか?
T:すでにある程度考えてあるんですよ。例えば……。
実はこのふたりの対談は『サローネ・デル・グスト』出場の徳岡さんに密着した、BSジャパンの番組でのワンシーン。続きはお正月に放送される番組で確かめてもらうとして、話を聞くだけじゃ満足できない本誌スタッフ。トリノで披露したお料理を特別にいただいた。
話題の「温玉」。ソースと温泉玉子が濃厚なクリーム感で溶け合い、生のタマゴダケとともにじわじわとウマミが口中に広がっていく。そこへ、苦みが香る揚げ米とニンニクチップが時折現れる。一見どの皿も西洋料理。が、繊細な香りづけや素材の持ち味を引き出す技など、日本料理の魂が随所に感じられる徳岡ワールドに、世界の美食家たちは文字通り舌を巻いたに違いない。
最後に、今回の特集のテーマ「クール・ジャパン」について、徳岡さんは何を思うか聞いてみた。いわく、日本料理の真髄は、野菜や魚など素材の質の高さ。日本の農家や漁師など第一次産業の担い手こそ、もっと世界に注目してほしいとのこと。徳岡さんは、農家の後継者不足までも憂慮し、その支援活動に力を入れているのだとか。伝統ある料亭文化の中で新しい取り組みに挑戦する革命児は、とっても器の大きいヒトであった。
●吉田清衛門/ライター