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「入梅の候、お変わりなくお過ごしでしょうか」
本来であればこういった書き出しでお便りを差し上げるべきなのでしょうが、どうも苦手で、また僕が今パリに居り、梅雨と聞いてもピンとこないので、率直にお尋ねします。「お元気ですか」。
僕のパリでの研修も十ヶ月目が目の前に迫って来ました。「自分の中での狂言を、そして演じる事を客観的に見つめ直したい」と考え、去年の九月に日本を離れてフランスに参りましたが、何とか元気に生きています。今日はそんなパリでの生活のご報告を!
パリでの研修を大まかに申し上げると、今まで自分がおかれてきた環境を見つめ直す毎日です。自分の周りに当然のようにあったものの有り難さや、逆にない事による新鮮さ、等々。京都という古い街に生まれ、狂言の家という独特の雰囲気の中で育った僕にとって、パリでの生活はまさしく「新しい水を飲む」生活です。文化や風習は京都とは大違いですし、人と人との関わり合い方も全く違います。
周りの人から、パリと京都は似ている?共通点はあるの?などと質問を受けますが、こちらで僕が感じたのは「全く違う!」という事。パリも京都も歴史のある街ですから無理矢理に共通点を見つけ出せるとは思いますが、やっぱり違うものは違います。こじつけで探しても見誤ってしまいそうですしね。それよりもちゃんと違うと分かる事が重要なんだ、と最近思うようになりました。ただ、目に見えない部分、例えばその街に息づく伝統へのこだわりというか誇りは、京都人とパリ人に共通する点が多いかもしれません。そういった点で京都とパリが似ているとおっしゃる人が多いのかなぁ、なんて気もしています。
実際、僕が狂言を生業としていると聞いた周りの人は、必ずと言っていいほどこう言います。「君は伝統を線で受け継いでいるんだね」と。日本における世襲制度が演劇の世界では珍しく、面白いようです。日本では演劇に限らず色んな職業の方にこの制度は残っているので、僕にはあまり珍しくなかったのですが、こちらに来て、僕はやはり恵まれた環境で育ったのだなぁ、と再確認してしまいました。こちらに来た目的が今までの環境を見つめ直す事だったのに・・・・。実際、研修をしていても今まで父や祖父に教えられた事に助けられる時が多く、伝える事の大切さ、伝えてもらえる人の居る事の有り難さ、そして伝わってきた年輪の大きさを実感しております。
徳岡さんもパリには何度もお見えと伺いましたが、パリの料理人の方と話された時にはどんな感じでしたか?京都の料理もパリの料理も双方に伝統ある世界ですから、普段から交流なさったりするのですか?また教えて下さい。美味しいお酒でも飲みながら!
それでは、九月には日本に帰りますので、お目にかかれるのを楽しみにしています。
パリにて。
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