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徳岡邦夫
京都吉兆嵐山本店総料理長。1960年生まれ。20歳の時に祖父である湯木貞一氏に師事、茶の世界に入る。1995年より実家である京都吉兆の料理長として現場を指揮。茶の精神は今も徳岡料理の基盤となっている。
『良い包丁がなければ料理はできない』。極論かもしれませんが、真実を突いている言葉だと思います。和洋中限らず、料理人にとっての包丁は命。自分の腕を伝える手段であるのですから、そのコンディションには細心の注意を払っておきたいものです。そのためにも、包丁を研ぐという技術はぜひ身につけておいて下さい。
まずは砥石ですが、非常にたくさんの種類があります。最近はダイヤモンドの砥石というものもあります。地球上で最も硬い素材であるといわれるため、研ぎにも万能ですが、値段もそれなりのもの。いきなり良い研ぎ石を揃えて・・・と考えるよりは、包丁との相性や自身の好みの方を大事にして下さい。色々と試行錯誤する事で、自分なりの研ぎ石が見つかって来ると思います。「京都吉兆」では、「この包丁を使いなさい」や、「この砥石でなければダメ!」ということは一切言っていません。もちろんアドバイスはしますが、最終的に選ぶのは本人。包丁には料理人としての思い出がいっぱいに詰まります。師匠から譲り受けたもの、初めて自分で金を出して購入したもの・・・など、さまざまです。
そんな自分の一本だからこそ、自分で責任を持って研ぐ。包丁がベストの状態で調理ができるように、念を入れてメンテナンスをしてあげる。調理場では毎晩、誰かしら包丁を研いでいる姿が見られます。若い料理人達のそのような姿を見ていると、実はこの研ぎという作業から料理の道は始まるのでは、とさえ考えます。
包丁は『生き物』と考えてみて下さい。当たり前ですが、包丁は研げば次第に減っていきます。研ぎを行うことで自分の包丁技術の特徴、クセなどを見つけ、それを伸ばす(あるいは修正する)ようにします。刃先を多く使う仕事かあるいは刃元部分を多く使う仕事か・・・それは人によって分かれます。ただ漫然と均一に研いでしまっては、無駄に刃を消耗してしまうことになります。ほら、見て下さい。こんなに薄い刃ですが、全て同じ厚さということではないのです。人が行うものですから、研ぎあがりももちろん微妙な「狂い」がある、それを最小限にして、包丁を『活かす』ようにしてあげるのが、包丁に対する料理人の姿勢と言うものではないでしょうか。

 
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