----- そうですか・・・。
徳岡 だから、玄関入って、お香の匂いから、掛けもの、花入れ、タイミング良く出て来る器から、全部日本の文化がここに皆ひとつに固まってると言うてくれました。そやけど日本人より外人さんの方がそういう見る目は・・・。前ね、仮名をだーっと書いてあった掛けものを掛けてましたら、アメリカのお客さんですけど、全部お読みになって。で、お嬢さんは浴衣を着てみえて。料理の始めから終わりまでずっと正座したまま食事されて。びっくりしました。あんな難しい仮名をよう読みはるなあと思ったら、中国に長いこと行ってはって、中国の感じは習うてはった。でも日本にきて、日本に来てから仮名習いはったって。アメリカの人って勉強する人は徹底的に勉強しやはるんですね。
----- すごくいいお話ですね。
徳岡 いやだからね、僕は京都で店まかされた頃に、「吉兆さんお伺いしたいんですけど、食べ方知りませんので・・・」て言われて、「いや普通の箸で食べますので、口さえあれば大丈夫です。」ってそういう説明をして、初めての方には来てもらってます。
----- 社長はいつも来られる方を見てらっしゃるからでしょうけど、まだまだ一般の方にとって、ことにこの本(グレートホテルズ)をご覧になる方でね、やっぱり吉兆に行ってみたいけど敷居が高い言う人、もう、ごまんといますよ。
徳岡 それをね、とりのぞかんと・・・。
----- 吉兆さんに伺うと、もてなす側は一生懸命なのに、我々もてなされる側がちょっと気楽すぎるんじゃないかと・・・もてなしてもらう側の姿勢も大事ですね。お茶の上げ下げくらいは分かりますが、まず軸が読めない。お花の持っている意味あい、お茶の心がわからないから、ちょっと敷居が高くなるんですよ。
徳岡 お茶の世界いうのは、お茶を習うてる人はその自分の流儀をきっちり守ってしはらなあかんのです。せやけど別にお茶に関係のない人は別です。
----- まあしょうがないですか。でもやっぱり嵐山吉兆さんでお食事していただくときは、たとえそのうちのひとつでも、軸とか、花なら花だけでも、お料理の食材とかに対する気持ちを持って行かせてもらわな・・・と思うんですよ。
徳岡 そうですね。お香のにおいでも、沈とか伽羅とか焚きますよね。伽羅焚いて当てたん、祇園の芸妓さんひとりと、先斗町の芸妓さんひとり。「お父さん今日は伽羅やね」言うて。やっぱりええお客さんの時は焚きますけどね、そんなんでっせ。男性誰もわからへん。芸妓さんは香道習うとるんでしょ。それでぱっと当てはる。ええにおいしてるってのは誰でもわかりますけど。
----- そうなんですね。
徳岡 嵐山の店て、たとえば四万円とか五万円とかとられると、あそこは高い店や、おっしゃるけど、それは、掛け物や花の知識とか、器に対する・・・そういうものを皆持ってはる人がみえたら、むちゃくちゃ安いんです。
----- 値打ちがわかるとね。そういうことも知っていただく方が大事ですよ。
徳岡 器でもね、お茶習うてる人は皆、すぐひっくり返してみはるんです。「あ、これ永楽さん」言うて。今の永楽さんでも五代前の永楽さんでも何でも永楽さんですわ。法全でも和全でも。ほんで楽さんでも「あ、楽さんや」、そういう喜び方をしはるんです。昔はね、みんなこうええもんはええいうてた時代があったんですけど。
----- 器もお客で飼えたりしますか。
徳岡 そんな時もあります。喜んでもらえる人には次々と。面白い人がいて、自転車で来る人もあるしね。
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聞き手・今西令子
・アナウンサー
・フードジャーナリスト
・日本旅のペンクラブ所属
撮影・溝口照正 |
----- 自転車で!ほんとですか。
徳岡 病院の院長先生ですけどね。立派な。今でも・・・。
----- 自転車で来られても、その方がちゃんとしてはるんなら・・・。
徳岡 自転車で来はった第一号。
----- 後にも先にもその方だけですか?
徳岡 自転車はひとり。
----- でもいいお話ですよ。 |