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形式や格式にこだわらず、まず触れてみること

西川:徳岡さんの場合は、いわゆる『和』の食を家業とする家にお生まれになった訳ですけど、
途中で目移りしたとかは?

徳岡:しましたね。それは世の常じゃないですか(笑)。でも、その目移りの間に、いろんな方に出会えて、 いろんな環境での考え方が聞けたのは、すごく有意義でしたね。そして今もまた、こうして西川りゅうじんさんに  お会いできましたし(笑)。2人とも、1960年生まれで同い年だったんですね。

西川:共通1次の第1期生で、1番人工の少ない世代で、この中に実は皇太子殿下もいらっしゃるというのが、 いかにも象徴的ですけどね。
その同い年の徳岡さんと、去年京都で、初めてお会いして、すごい方だなと思いましたね。
日本を代表する料亭のご主人なのに、どんどん前向きにいろんなことを求めていらっしゃるし、また文化人としても、 香道の復興のために活動されていたり。常に『温故知新』や『不易流行』で古いものと新しいものとの接点を求めてらっしゃる。
そのしなやかさが日本文化の強さであり本質だと思うんですよね。

徳岡:だから、古くからの文化も、敷居が高いと思わずに、誰もが、もっともっと自分なりに楽しんでいいはずなんですよね。

西川: そうなんですね。実は私も、徳岡さんとお食事したときに、料亭のご主人を前にして緊張していたのですが、 「好きにやってくださいよ」と言われて、ホッとしたんですよ(笑)。

徳岡:『和』の作法も、あえて形式や格式とかこだわらずに、まず触れてみることが大切だと思いますね。

 

茶髪にケイタイに浴衣、これもやっぱり『和』。

西川:今、その『和』が、ブームといわれていますが、それは、西洋的な物質的科学文明に、
明らかに行き詰まりが出ているからだと思います。科学が発達したきたことで、私たちは豊かな暮らしをしているけれども、 実は人間だって自然の一部じゃないかという・・・。でも、それまでそこに気付かなかったから環境問題が起こってるし、 数字至上主義で、何もかもデジタルで考えてきたことで、またいろんな問題も起こるし・・・。

徳岡:それから、海外に行って向こうの人達と交流した時に、日本の事を聞かれても、全然応えられなかったりして、 そこでやっと自分の事や自分の国の事を知らなくちゃいけないと思い始めたのでしょうね。

西川:私の仕事の中で、『和』のブームの一端を感じるのは、 ここのところ、浴衣や着物のファッションショーをやると、 すごい人気で、整理券もすぐ出ちゃうわけです。もちろん、茶髪で浴衣や着物を着てたり、それがキティちゃんの柄だったり、 携帯も持ってたりするわけですけどね(笑)。それから食の部分でも、日本食は世界的にも、健康食でありオシャレな料理として、 ひとつ確立されたジャンルになってきていますよね。そういう意味では、今の『和』ブームは、ある意味、
海外からの逆輸入的なところもあるということを感じますね。

徳岡:そうですね。確かに『和』はもどってきていると思いますが、それはあくまでも”形を変えて”という感じがするんです。
それは、リバイバルで昔の物を持ってきても、いまの価値観とか環境とかタイミングとかに適応しないと 受け入れられないからなんですね。

いま必要なモノは受け入れられ、必要ないモノは淘汰されていく・・・それは宇宙の原則かなと。

西川:なるほど。

徳岡:だから、私個人としても、今に適応できるように変わっていきたいなと思っています。

一時日本のテイストを取り入れた ヌーベル・キュイジーヌが逆輸入されて、日本食にもキャビア、フォアグラとか、海外のものを、日本風にアレンジして、 日本料理と合わそうとしたんですが、ただ目新しいだけで終わってしまって、定着はしなかったんですよね。
きっと、 人間もそうなんですよね。いろいろ淘汰されて、『立派な人・素敵な人』でないと生き残っていけないのかもしれない。
だから今 僕は、素敵な人になりたいなって思います(笑)。

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