京都・嵐山に、日本を代表する高級料亭がある。緑に囲まれた静寂の空間で、人は、ぜいたくなひとときを過ごす。繊細な料理は、三代目の主人の手で生み出される。総料理長・徳岡邦夫、四六歳。今、日本料理の新たな担い手として、海外でも注目される。二○○五年一月、スペインで開かれた国際的な食の祭典では、伝統にとらわれない斬新な料理が日本料理のアバンギャルド≠ニ賞賛された。
その料理は、サプライズに満ちている。例えば、ぼんぼりの柔らかな光に包まれた盛りつけ皿。料理を照らし出すぼんぼりは、かつらむきの大根でつくられている。日本料理の味付けにワインを使うことだって、日常茶飯事だ。客は舌で楽しみ、目でも楽しむ。
徳岡の信条は「伝統を守り、伝統を壊す」。そこには、格式ある「日本料理」「高級料亭」といったこだわりはない。「どうせやるなら徹底的にやるほうが面白いと。何したって一生一回なんですから」
三代目の重圧、バブル崩壊による閉店の危機…。そんなどん底から徳岡の料理は生まれた。
変える勇気と、変えない勇気の二つを胸に、徳岡は今日も、新たな料理に挑戦する。