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緑の優しい広がり、金線と文様の分量。すべてに調和がとれている。

日本料理の名店、吉兆。創業は昭和5年、初代の湯木貞一翁が29歳のときである。氏はその並ならぬ腕と人柄で引き立てられ、一代にして日本を代表する料理人になる。
「おもてなしの心」を何より大切にする店である。貞一翁は、自分の料理をより一層よろこんでもらいたい一心から、器に凝ることでも一流だった。当時の開店資金は3千円。それから一年間、器に充てた資金も同じ3千円であったという。
そうして集まった器には、重要文化財もあれば、吉兆のために誹えられたものもある。お迎えするお客さまと席の趣向、季節と料理、さまざまな要素から相応しい器が選ばれて、その日の卓に上るのである。
その吉兆で、ガラスといえばバカラである。その最初は、バカラが大正時代、日本の道具商の注文に応じてつくった器だ。当時の数寄者がこぞって買い求めたというそれを、後年、初代も手に入れる。以来、夏のおもてなしに使い継がれてきて、平成の今日も健在である。
さまざまな文様が懐石用の揃いであるそうだが、若主人の徳岡邦夫さんによれば、今回ご紹介いただいた向付はとくに、日本人に合うように、いろいろなことが考えられているという。サイズと形がよく、たいへん食べやすい。盛りやすくもあると。
バカラといえば重厚で、手にいたいほどの深いカットが有名だが、目の前のそれは楚々として華奢。薄造りに似合いの、繊細な表情だ。
 
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